SFC CLIP編集部は26日(火)、金正勲氏の経歴問題に関し、國領二郎総合政策学部長にSFCとしての公式見解を求めたが、國領学部長がこの一件に関して、既に慶應義塾大学当局の立場から外されていることが判明した。また、金正勲氏はハーバード大学客員教授以外の経歴にも疑惑が浮上。調査を続けている山本一郎氏に話を聞いた。

(おことわり)
 SFC CLIPの記事では本来、「金正勲政策・メディア研究科特任准教授」もしくは「金正勲准教授」と表記いたしますが、経歴・肩書きに関する問題のため、この記事では「金正勲氏」に表記を統一いたします。

「この件では大学当局の立場から外されている」國領学部長

 金正勲氏は約1ヶ月前に「慶應義塾大学准教授」を「慶應義塾大学特任准教授」、「ハーバード大学客員教授」を「ハーバード大学visiting scholar」とそれぞれ訂正したことを自身のブログにて発表し、経歴詐称を指摘された。しかしながら、この一件に関して、金正勲氏並びに慶應義塾大学当局から発表は未だにない。

 SFC CLIP編集部は26日、金正勲氏の引受担当者でもある國領学部長にメールでSFCとしての公式見解の公表を求めた。

 國領学部長は学部長であるが、金正勲氏の引受担当者でもあることを理由に、この一件に関しては大学当局の立場を外されていると明言。調査情報が一切入ってきていないことを明らかにした。

 國領学部長個人としては金正勲氏が慶應義塾大学の特任准教授としての肩書の使い方について問題があったことは認識しているとのこと。また、その点に関しては引受担当者である自身にも監督責任があり、責任は負うつもりであることを明らかにした。

「ハーバード大以外の経歴も虚偽であることを確認」山本一郎氏

 ブロガーの山本一郎氏はこの件に関して継続して調査を続けており、金正勲氏の「インディアナ大学博士課程修了」「欧州連合標準化戦略専門委員」「オックスフォード大学上席研究員」の3つの経歴について、虚偽であることを確認したとのことである。

 山本氏はSFC CLIP編集部の取材に対し、以下のように回答した。

—-金正勲氏はインディアナ大学博士課程修了が、最終学歴とされていますが、これは事実なのでしょうか。

 金正勲氏から直接ご連絡を頂戴し、指導教官とされる人物複数およびインディアナ大学当局との間でメールおよびインターネット電話による取材をしました。

 金正勲氏から頂戴していた話と齟齬が多く、またインディアナ大学としても博士課程は修了していない旨の回答があり、インディアナ大学博士課程は修了しておらず、あくまで遊学であるという結論になろうかと思います。

 また、インディアナ大学においては「金正勲」としての単独の論文はゼロであり、学術実績という点からも、研究者としての評価を何ら下せる状況にない、という結論となりました。

 金正勲氏の名誉のために申しますと、インディアナ大学に在籍され、研究活動をされていたことは確認されています。

—-金正勲氏は「欧州連合標準化戦略専門委員」を自称していますが、これは正しい経歴なのですか。

 欧州連合標準化委員会は2005年に一部改組しており、外部委員の所在などについての回答はプライバシーの問題も含めて明示的な回答はいただいてはおりませんでしたが、然るべきルートから人物照会をかけましたところ、やはり欧州連合標準化委員会においては、たとえEU内の学術機関からの推薦があったとしてもEU外からは正規の専門委員は認めない、例外的に把握されるアジア圏他からの委員については外部的にappointmentは視認可能である、という回答がありました。

 したがって、金正勲氏が経歴に明示してありました欧州連合標準化委員会の専門委員については合理的に在籍が確認できないという結論になります。

—-「オックスフォード大学上席研究員」については正しい経歴なのですか。

 オックスフォード大学上席研究員については、4年以上の在籍と学術的な功績がない限り正規の研究員として迎え入れるための教授会審議さえ行われないということであり、またオックスフォード大学における金正勲氏の論文はゼロということで、そのような研究員は客員以外で存在しないという回答と共に経歴に虚偽があったと確認されるものであります。

 ハーバード大学の客員教授については言わずもがなです。これに関しても詐称であると確定していると認識しています。

—-金正勲氏並びに慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所・金正勲研究会は今後どうなるのでしょうか。

 ここから先は、慶應義塾がどのような形で問題対処を行い自浄能力があるかを証明するところだと思うのですが、私自身、慶應義塾の塾員として大変恥ずかしい思いを抱きながら対応を進めております。

 なお、山本氏のもとには、金正勲氏がハーバード大学へ研究員として7月より異動するため、メディアコミュニケーション研究所・金正勲研究会が休講となるという情報があったが、現在内容を確認中とのことである。

学生への説明は未だなし

 SFC CLIP編集部は27日(水)、金正勲氏本人に宛てて、学生に向けて以下の4点を説明して欲しいという旨のメールを送付したが、29日(金)現在、返信は来ていない。

  1. なぜ経歴を訂正することになったのか
  2. 正確な経歴
  3. 今後、どうするつもりなのか
  4. 学生に向けたメッセージ

 金正勲氏の経歴詐称疑惑が浮上したのは約1ヶ月前だが、29日の時点で、大学当局やSFC当局から学生に向けての説明は一切無い。学生が支払った学費のうち、僅かであろうともその一部が金正勲氏の給与になっていたことは間違いなく、学生はこの一件について真相を知る権利がある。

 加えて研究会の休講等は学生のこれからの研究計画に影響を与えるものだ。とりわけメディアコミュニケーション研究所の入所を考えている下級生には影響がある。公式な情報を速やかに発表して欲しい。

 金正勲氏の経歴の内、「ハーバード大学客員教授」「インディアナ大学博士課程修了」「欧州連合標準化戦略専門委員」「オックスフォード大学上席研究員」の4つが虚偽であることはほぼ間違いない。これだけの証拠が揃っていて言い逃れすることは不可能だ。潔く学生に向けて謝罪をしてほしい。

 また、大学当局もこの件に関して、速やかに調査をすすめ、なるべく早く学生に説明するべきだ。


7月1日(日)編集部追記

 國領学部長への取材際、大学当局の「調査」と記しておりましたが、表題並びに本文中にて、「捜査」と表記しておりました。本件では「調査」に統一いたします。訂正してお詫び申し上げます。