ORF2016の2日目・19日(土)、セッション「これでいいのかデータサイエンス?」が開催された。日本のデータサイエンスの現状と展望について、SFCのみならず、グローバルな視点からの議論が交わされた。

セッションは、鈴木寛教授の司会進行のもと、以下の4人のパネリストによって行われた。会場は満席で、立ち見する人も多く見られた。

■パネリスト

  • 鈴木寛 政策・メディア研究科教授
  • 村井純 環境情報学部学部長
  • 樋口知之 情報・システム研究機構理事/統計数理研究所長
  • 安宅和人 ヤフー株式会社CSO/政策・メディア研究科特任教授

データサイエンス分野における日本の現状

SFCは早くからデータサイエンス教育に尽力してきた。近年では、滋賀大学にデータサイエンスを冠した学部ができるなど、データサイエンスへの注目が高まってきている。しかし、「データサイエンスに関する学位を与える機関が500以上あるアメリカなどと比べると、日本は何年も遅れている」と安宅特任教授は話す。

日本の現状と問題点について語る安宅特任教授(手前)

日本の現状と問題点について語る安宅特任教授(手前)

安宅特任教授は現代を「『AI(人工知能)』vs『人間』の時代ではなくて、『経験則でしか物を言えない人』vs『何万ものデータを運用できる人』の時代」と表現。リベラルアーツが自由民と奴隷を分けるものであったように、いまやデータリテラシーが情報の奴隷になるか人間らしく総合的な判断を下すことができる自由民になるかの試金石になっていると語った。

そのうえで、日本は理工系の人材がかなり少ないために、データリテラシーのある人材が非常に不足していると指摘した。技術立国を標榜しているドイツや韓国は早くからデータサイエンスに長けた人材を供給してきたが、日本では実に10万人のデータサイエンティストが不足しているという状況だ。さらに、ドイツ・韓国以上にデータサイエンティスト育成に力を入れてきたアメリカにおいても、大学などにおける教育システムも整備されており、多くのデータサイエンス関連の学位を取得した人が輩出されている。たとえ学位の取得まではしていなくとも、データを分析する訓練を受けている人材は多くいるため、アメリカでは十分な人材の供給が行われていると言われている。「日本は、データサイエンスにおいて、欧米が産業革命を経験している時に日本が鎖国していたくらいの遅れをとっている」と危機感を表した。

そして「今求められているのは、第一に基本的な分析能力を訓練された人間だ」とし、基礎教育の重要性を強調した。安宅特任教授は今年度からSFCで「データ・ドリブン社会の創発と戦略」という授業を担当している。実際のYahooのデータを使い、技術を身につけ、データを運用する力を養うという内容だ。このように、地道にデータサイエンスに触れた人材を増やすことが日本の未来を明るくするための一歩だと話した。

これから生きていくために必要な「データリテラシー」とは

樋口所長もまた基礎的な知識の重要性を説く

樋口所長もまた基礎的な知識の重要性を説く

ビッグデータの重要性が騒がれて久しいが、基本的な統計的知識がいまだに社会に浸透していないことを指摘した樋口所長。「トランプ氏の当選を予想できなかったのはデータの質が悪かったから」と話し、ランドンとルースベルトが争った大統領選の有名な予想を挙げ、新たな問題ではないと断じた。正しいサンプリングをするなどの基礎的な知識を身に着けることが大切だと語った。

加えて、AI(人工知能)についても言及。「内挿マシン」や「非線形な解決手段」といった言葉を挙げ、AIができること、得意とする事について説明した。そのうえで、AIにできることと向いていないものを見極めることが必要だと述べ、Google社のAlphaGoやIBM社のWatsonも万能ではないと話した。これからは、分野を掘り下げることは勿論、様々な統計やAIについての知識を幅広く習得し、新しいサービスやものを創造していくことが重要だと語った。

樋口所長は、統計やAI、機械学習についての現状について上記のように語り、これらについて精通し、活用することができるデータリテラシーを持つ人材を育成することが大切であると強調した。

SFC、そして日本のデータサイエンス教育

質疑に応える鈴木教授(左)と村井学部長(右)

質疑に応える鈴木教授(左)と村井学部長(右)

村井学部長は、SFCにおけるデータサイエンス教育を振り返り、世界に先駆けてコンピュータリテラシーを普及させたと胸を張った。データサイエンティストを育成しようと思ってSFCを作ってきたわけではないと前置きしつつも、SFCを卒業した学生が社会で「コンピュータに長けた人材」と認識されるようになったことは成果だと話した。

また、統計をはじめとするデータサイエンス科目の必修化や情報入試を取り入れたことに触れ、試行錯誤をしつつも、SFCがデータサイエンス教育についてパイオニアであり続けていると考えを述べた。情報入試が高校における情報教育を推進するための高校へのメッセージになり、受験生が過去問を勉強し、次の問題を予想することがデータサイエンスの学びに繋がると期待しているという。

その上で、今後の展望について、SFCをデータドリブンキャンパスにすることを挙げた。「あらゆる申請から紙をなくし、レストランなどのデータも学生が共有できるようにする。こういったキャンパス内のデータ化を進め、学生が自由に活用する中で自然とデータサイエンスを学べるようにしたい」とした。

さらに、鈴木教授が「データサイエンスに臨むうえでは数学的な能力を身に着けることが重要ではないか」と問いかけると、樋口所長は「数学は生きる為に必要な力。好きにならなくても、諦めないでほしい」と応えた。村井学部長は、一部で数学アレルギーともいえる人々がいることに触れ、それが数学を教えるうえで最大の問題だと話した。鈴木教授は、数学に通ずる論理性や考え方を取り入れた「論理国語」を高校の教育課程に創設した経緯を話した上で、「慶應がそうしているように、文系にも数学を課した方がいい」と学生全員への数学教育が不可欠であると論じた。

データサイエンスと「数学」の重要性

セッションでは、パネリスト全員がデータサイエンスの基礎となる数学の重要性を語った。情報に容易にアクセスできる現代において、これを活用するためにデータサイエンスを学ぶことは重要だ。しかし、その基盤となるのは数学である。鈴木教授が「文系にも数学を」と呼びかけるなど、大学で数学教育を行い、科学の下地となる数学的な考え方や論理を教えることの重要性が熱く語られていた。

村井教授はSFCがデータサイエンティストの育成に一役買ったことを誇りつつも、数学アレルギーを持つ人々が少なからずいると懸念を示した。SFCは他学部の講義も卒業単位に含まれる数少ないキャンパスだ。SFCの講義に加え、他学部のものも受講すれば、数学を深く学ぶこともできる。学際キャンパスの利点を活かし、文理の垣根を越えて、数学と向き合ってみてはどうだろうか。

関連記事

関連ページ

コメントは承認後表示されます。