熊坂研究会、network styly プロジェクトでは、weblogやWikiなどと呼ばれるネットワーク上のツールを使って、授業時間以外にもネットワークに関連する研究・議論を進めている。ネットワーク上でプロジェクトを進めながら週一回の授業時間を「オフ会」と位置付ける、「ネットワークっぽい」研究会 network styly プロジェクト。
そのプロジェクトの雰囲気や、成果などについて濱野智史さん(政メ1)にお話を伺った。
また、今回濱野さんには、【日進月歩】weblogとは何か というタイトルで、network styly *で使われているweblog概説を寄稿していただいた。

研究会について

研究会の時間はどういった雰囲気なんでしょうか?

視線が先生に一極集中する教室というスタイルは近代の象徴というかネットワークっぽくないよね、ということで、インテン部屋のように、お互いが見える机の配置にしてやっています。でも結局、研究会の間は、皆でPC開いてチャットしているんで、どこ見ているんだかよくわからないという状況ですね(笑)

研究会の時間でチャットをしているんですか?

はい。メンバーがプレゼンをしている最中に、皆でチャットをしています。決してプレゼンを聴かずにサボっているわけではなく、プレゼンにツッコミをいれつつ、そのままログにするためです。ちょっとまだみんな慣れない感じで、まだまだ改善の余地があるとは思いますが。
そもそも、チャットというのは同じ時間に違う場所の人が会話するためのものであってチャットツールを使って、同じ場所同じ時間に会話するというのは意味が無い、と考えるのが普通ですよね。
でも、熊坂先生が仕切り役をした1999年のOpen Research Forumの講演会で、先生方が話している舞台の横に、聞き手である生徒たちが書き込んだ文字が表示されるというシステムが導入されて、外野がヤンヤヤンヤ言っているのが見えるという状況が意外と好評だったので、それを真似て導入してみたという感じです。

プレゼン中のチャットはどういうことを話しているんでしょうか?

基本的には、プレゼンに対する意見やツッコミですが、全然関係ないことを喋ってたりもします。あと研究会以外の授業中にも、熊坂研の人が多く取っていたりする場合、熊坂研のメンバー同士でチャットをしてツッコミを入れるというような感じにも使ったりしています。network styly *にチャットのログがアップされているので興味のある方は見てみてください。

熊坂先生はプロジェクトにとってどんな存在ですか?

ご存知のとおり熊坂先生は、環境情報学部の学部長なのでお忙しいのですが、先学期ですと半分以上は来てくださってます。先生は、びしっと言うときは言うし、するどいツッコミをいれる。一回喋るとダダーっと長くなって誰も止められない感じで、暴走とも言うけど(笑)とにかく、情報量の濃い話をしてくださいます。

network styly * について

network styly *ではどんなことをしているんでしょうか?

『普通なら「ネットワーク」とは関係ないと思われている事柄も柔軟に捉えつつ、ネットワーク社会について考えていこう』というコンセプトの元で、ネットワーク周辺に関する色々な事柄について、グルワ、個人研究をしています。基本的に毎回、研究会の時間にゼミ生が自分の関心・興味・研究についてプレゼンをして、それをもとにディスカッションをする、という形式です。ですが、研究会の時間以外にも、weblogやWikiを積極的に活用して進めています。 network styly *というプロジェクトの名前には、「とりあえずなんでも(=*アスタリスク)ネットワークっぽく考えてみよう」という意味が込められています。
(編集部注:windowsやUNIXで*はファイル名やディレクトリ名を指定するときに「任意の文字」を意味する特殊文字として使われる)

network styly *がはじまったきっかけはなんですか?

そもそも前提として、「ネットワークスタイル」という熊坂先生の大学院でのプロジェクトがあります。
簡単にいうと、熊坂先生が95年以降日本社会が迎えたとする「ネットワーク社会」について、ネットワークというものが社会に与えるインパクトについて考えるとともに、ネットワーク上で新しい社会調査実験サイトを自分たちで運営して、そのサイトで得られたデータをもとに社会分析を試みる、というものだったんです。
その方法論は『iMap』(ネットワークを利用した新しい社会調査のためのサイト)『リサーチQ』(熊坂研究室・テレビ朝日編成部共同で研究開発・運営しているインターネットを使ったテレビ番組に関する調査)という熊坂研で取り組んだ社会調査プロジェクトで結実し、現在もその解析・分析は熊坂研のもう1つのプロジェクト「imapcomics」のほうで継続しています。ですが、たとえば2001年に公開した『iMap』も、はじめてから少し時間も経って、新しいことをやってみたいという人もチラホラでてきました。そこで、そのための新しい場を作る、というのが直接のきっかけになっています。2002年の夏のことです。

network styly *の最終的な目標は何ですか?

network styly は、ゆくゆくは社会調査につなげて行こうと思っています。『iMap』 や『リサーチQ』などのプロジェクトを踏まえつつ、熊坂先生の提言されるネットワーク社会のヴィジョンというものを、さらに練り上げていければと思います。
ただ、ネットワーク社会を考えるヴィジョンといっても、95年からはもう8年も経っているし、ヴィジョンが前提としている現実も様変わりしてきたところがあります。そこで、とりあえず、まずは面白いネットワーク近隣の最近のネタを漁ってみようという感じで、ひとまずは熊坂研メンバーで何を出せるのか、何をやれるのかということを集中的に「吐き出す」という目的でプロジェクトをはじめたのが実情です。だから、明確な最終目標、というのはまだ手探りの段階ですね。なので、weblogをやりつづけることがnetwork styly
の目的というわけでもないです。まずは情報共有から、ということで。

では、network styly *で使っているweblogやWikiはあくまでもツールという感じなんですか。

ええ、ナレッジマネジメントのツールとして便利に使っています。それだけだったら何も熊坂研だけがやっているというわけではないのですが。
それでも、あえてプロジェクトとしてweblogに本腰をいれている理由は、一般的に、研究会という組織の情報がどうしてもオープンにされにくい、という感じがしていたからなんです。
というのも研究会のwebサイトってどうしても静的で、情報量も豊富じゃない。一回見たらおしまいの、イメージを伝えるだけのものだな、というイメージがあったんですよ。それで、とりあえずはもっと更新が盛んで、情報がどんどん小出しにされている研究会公式のwebサイトというのを、ウチでやろうかなと思いたちました。そこでweblogやWikiというツールを使っている、というわけです。
そういうことは、研究室の中でメーリングリストという形でやってもいいんですが、それだと研究室内部のクローズドなものなんですよね。けっこう、人に見られるから・恥ずかしいから・もったいないから、あまり書きたくないという心理があるものですから、クローズドな方がコミュニケーションが盛り上がる側面もあるので難しいところなんですけど。
ただ、そもそも「ネットワーク社会のヴィジョン」として、「情報の共有」というものがあります。それを標榜する熊坂研自体が共有をやらなくてどうする、という話もありますので。もちろんウチのサイトを見て、「ああ、なーんだウチのほうがもっといいネタ持ってるよ!」と思ってくだされば、それをきっかけにどんどん他の研究会や何かプロジェクトで、weblogが普及していくといいなあ、と単純に思います。
まあでも、熊坂研であえて「weblogをやっています」と言うのは、最初は、ネットワーク社会的に新しい単語なので、ま、追っかけてみようかな、という軽い気持ちからというのが正直なところです(笑)。当初は軽い興味から首を突っ込み始めましたが、いろいろと面白いムーブメントであるのは間違いないので、これからもどんどんコミットしていきたいと思
ってます。

weblogやWikiで吐き出されたメンバーの興味というのにはどのようなものがあるんですか?

ネットワーク関連ということですと、ネットワークゲームやP2Pファイル共有の社会的側面についてなんかが旬のネタとして盛り上がりました。例えばP2Pなんかの話だったら、「著作権守らなきゃいけないよ!」というスタンスで語らないのが熊坂研の特徴かなと思います。
あとはレンタルビデオ店でバイトしてる人は、レンタルビデオの履歴をもとにしたネットワークコミュニティを考えるいう話だったり、『@コスメ』はなぜ女性のあいだで大ウケしてるのかを追っかけてるグループがあったり。あ、weblog自体を研究対象にしている人もいます。また、サッカーファンの、新しいネットワークコミュニティを考える人や、カメラ付ケータイを用いた新しい社会調査を考える人もいたり。結構バラバラなんです。分析を主体にやるひと、新しい企画を考えるのを主体にやる人もいて、ほんとにそれぞれです。「ネットワークっぽさ」というのが共通のキーワードという以外は。ただ来期以降は、バラバラなままだとちょっとアレなんで、実際にいくつかミニプロジェクトとして稼動できるよう準備する予定です。

実際weblogをやってみてどうですか?

単純にメモとして使うのに、便利ですね。人が見ているっていう意識があるから、自分だけのメモよりも少しは気合入れますので。自分のメモってあとで見ると、全く意味がわからない場合が多かったりするから(笑)
あとですね、よく受ける誤解として、webとかあんまり見ない人に、「いったい何時間WEB見てまわってるんですか?」っていわれるんですよ。「こんなに色々なニュースをどうやってしょっちゅう見つけてくるんですか?」って。テキストサイトとかをよく巡回するひとならわかると思うんですが、ぜんぜん、そんなに時間掛けてるわけではないんですよ。自分がよく巡回している、個人ニュースサイト/weblogをパラパラっと見てネタをいくつかクリップしているだけなんで。ほんと、新聞をぱらぱら見て、切り抜きをするのと感覚は変わんないです。
また、 weblogをしていると、毎日更新を続けてないとなんだか気が気でなくなくなるんですよ。そのおかげで、自分の研究領域に関連するネタを日々チェックして肥やしにする、という意味では、weblogはすごくいいです。ふとしたきっかけで、新しい領域との出会い・新たな興味も生まれるようになるので。

熊坂研内では皆、盛んにweblogをやってらっしゃるんですか?

weblog に対しての温度差はあるかもしれないです。でも、情報が欲しい、情報をもっと共有したいっていう気持ちは共通してあると思います。というよりは、普通、温度差があるだけだと、お互いが興味を持たなければおしまいですよね。weblog的なコミュニケーションって、お互い興味関心の温度差はあるにもかかわらず、互いのエッセンスは共有をして、なんとなくつながりをもってやっていく、というところがナイスだと思ってます。
理想としては、リアル熊坂研究室(o408)は、毎晩けっこうなゼミ生が残留して、互いに作業をしつつも、コアーな議論やバカをしたりして、よく「不夜城」なんて呼ばれているんですが、それをネット上でもやれたらいいよね、っていう感じです。
あ、あとですね、僕はweblogを読んでみたい人ってもっとたくさんいるんですよ、まだ見ぬ人も含めて。「本当はいいネタ持ってるんだから、見せてよ!」って思う人がたくさんいます。だから、network styly だけがweblogするからどうぞ見てください、というスタンスでやっているわけではないんです。network styly をきっかけに、もっとweblogへの敷居が下がるといいな、と。もちろん、ウチのweblogもまだまだ途上で、もっともっと速度なり鮮度なり密度なりをどんどんあげていくつもりですけど。

network styly *のトップページはプロジェクトにとってどういう位置付けなんですか?

や、それはとくに意味ないです。ただ、wikiを置くより先にあったというだけで。
トップは今、実質一人で更新しているんですが、研究会全体でやるようシフトしていくなり、ひとり1weblogをもつようにするなど、来期からは変えて行きたいですね。

オススメのweblogツールは熊坂研で使っているMovable Typeですか?

そうですね、日本語化環境がすごく整っているので、使いやすいですよ。
CNS環境で簡単に導入する際の方法については、network styly のwikiに(nsWiki – MovableTypeをはじめてみよう)で詳しくフォローしたページがあるので、是非試してみてください。
それで、逆にSFC CLIPへの提案なんですが。

え?

SFC  CLIPって、webとか普通にHTML書いて作っているとお聞きしたんですが、単純に面倒くさいですよね、そういうの。そこで、weblogツールで支援された環境でやる、というのはどうですか?普段はweblogで更新をして、ある程度記事が溜まったらメルマガで出すみたいな、そういう形式でもいいと思うんです。
また今までの情報量も増えてきて、SFC CLIPも今、検索機能とかも欲しいところだったりすると思うんですよ。そういう機能もweblogツールには整っているので、非常に便利だと思います。
自分で日進月歩のほうで定義を語っておいてそれを覆すのもアレなんですが、変に"weblog"という定義・テリトリーにとらわれずに、便利なんで柔軟に使っていくといいんじゃないか、ということで。

なるほど、考えてみます。どうもありがとうございました。