6日(土)、三田キャンパスにて、第4回情報ネットワーク法学会が行われた。この中で、P2Pシンポジウムが開催され、岡村久道(弁護士・近畿大学法科大学院教員)を司会に、奥村徹氏(弁護士)、上野達弘氏(立教大学法学部助教授)、苗村憲司氏(政策・メディア研究科教授)、西村博之氏(2ちゃんねる管理人)がパネラーとして参加し、幅広い領域に渡る議論が行われた。

はじめに、岡村氏がベータマックス訴訟に始まる、ツールに対する一連の著作権侵害訴訟の事例を紹介した。その上で上野氏は、近年の著作権侵害行為に対するユーザへの責任追及だけでなく、P2Pなどのサービスの提供者、開発者の民事責任について、違法性を追求していくべきという考えを示し、差止請求・損害賠償という二つの視点に分けて、過去の判例を元に検討を行った。しかし判例にはいずれも賛否両論の部分があり、Winnyなど純粋型P2Pサービスに対して、過去の判例の適用することの難しさもにじませた。
 Winnyの開発者である47氏こと金子勇被告の弁護人である奥村氏は、「P2Pの使用が様々な罪に抵触する可能性がある」と指摘、その上で、今後著作権法のP2Pへの対応だけでなく、刑法、児童ポルノ法等についても、P2Pが利用される場合を適切に処理できうようにするべき、との見解を示した。また、P2Pの開発には「悪用防止」の配慮が必要だと訴えた。
 一方で苗村氏は、インターネットのパブリックドメインという性質から、P2Pの意義とそれを成立させるための条件として、財産的権利の保護、人格的権利の保護を挙げ、それらの保護と合わせた利用者立場の「Best Practice」の確立が必要だと述べた。しかしそれらの確立の前に「いくつかの裁判が起こり非常に残念だ」と付け加えた。
 また西村氏は、P2Pの現状について「Winnyなどのユーザに悪意はなく、むしろネットワークに対して貢献をしているという善意がある」と述べ、それらの行為は今に始まったことではないということを指摘、善意ということから、今後ともネットワークの肥大化により、同様のP2Pの発展はは止められないだろう、という意見を述べた。
 一通り各氏が意見を述べた後、奥村氏は「著作権者の利益の調和を考える必要がある」と話題を転換、自身が著作権法の議論を追っていく中で、著作者の意向で法が変えられている一方、表現の自由などの議論が全くなされていないことを指摘した。
 これ受けて、苗村氏は著作権のありかたの多様性の必要を挙げ、現状のベルヌ条約によるモデルから、著作権の登録主義に移行せざるを得ないとの考えを示した。
 
 会場には情報ネットワーク法学会会員を初め、多くの聴衆が詰め掛けたが、中にはWinnyの開発者 金子勇被告の弁護団の事務局長・壇氏の姿もあり、司会の岡村氏から意見を求められる場面もあった。壇氏は「著作権は保護しすぎると、産業が発展しないことが分かってきた。現行著作権は産業には使いにくい」と問題を提起した。

さらに岡村氏は、「この法律は教えている側としても、実はよくわからない」と追随、権利に権利を重ね、複雑になりすぎた著作権法に対する意見に、他のパネリスト・会場の同意を得た。過去の印刷機の時代から、個人レベルでのコピーツールを持つ時代に移ったことや、長い保護期間など、現行著作権は時代遅れになっていると批判した。また、西村氏もそれを認めた上で、ネット上と本の出版で成功している「電車男」の例を挙げ、業界全体でビジネスモデル自体を変えていくべき、と述べた。
 保護期間や権利の点で、苗村氏は「権利者の範囲・利用者の自由に使える権利は根本的に変わるべきだが、まだ最適解はわからい」と述べ、上野氏もそれに賛同した。