今回は、メタゲノムの研究を行っている、村上慎之介さん(環3)にインタビューを行いました。メタゲノムとは、多種多様な菌が共存する状態を解析していく研究。菌のDNA情報を得たり、今まで発見されてこなかった新しい菌と出会う可能性も含んだ研究分野です。


1.この研究を始めたきっかけは何ですか?
 去年の春休み、高校時代にお世話になった地学の先生に会いに行き、そこで"深海の貝とその周りの土"を頂いたことが始まりです。これを使った研究をしたいと思い、冨田研で実験を行っている先輩に相談したところ"メタゲノム"で貝と土にいる菌について調べられることを知り、研究テーマとなりました。
 以前から実験とインフォマティクスを絡めた研究にも興味があったことや、この時はちょうどバイオキャンプが始まる直前で実験がしやすい環境が得られたことも重なり、タイミングがよかったことも要因の一つです。
2.メタゲノムとはどのような研究ですか?
 まずメタゲノムとは、多種多様な菌が共存している環境や状態のことを指します。ですから実際にはこの状態を解析する研究を行っています。例えば、地学の先生に頂いた深海の貝の場合、貝に付着していると思われる微生物群を採取し、その集団からDNAを抽出し、それをシークエンサーと呼ばれる機械で読みます。従来は単一菌種に分離してからゲノムDNAを調べていたため、菌は生きている状態でないと単離できず、調べられる菌が限られていました。しかし、このメタゲノム解析では、すでに死んでいる菌でDNAを調べることができ、今まで入手困難であった菌のDNA情報を得られ、また多くの新しい菌と出会う可能性を含んでいます。この手法を使って、新しい菌の発見に役立てたり、DNA情報から生物の起源に迫ったりすることが出来ると考えています。
3.現在の研究状況を教えてください。
 現在はメタゲノムの中でも古細菌のゲノムに注目しています。古細菌はとても面白い性質を持っており、例えば生息地については、極限環境とよばれる他の生物が生育することの出来ない強酸性の場所や、100℃以上もある温泉の源泉、また深海などが挙げられます。地球が出来たばかりの環境は極限環境であったと考えられていることから、極限環境を好んで住んでいる古細菌は生命の起源と関係していると推測される生物種でもあります。
 古細菌の性質に着目し、最近では山形県鶴岡市にある湯野浜温泉の源泉水を採取し、メタゲノム解析を行いました。その結果、源泉水から南アフリカの金山で発見された古細菌とほぼ同じゲノムが見つかり、古細菌の奥の深さに面白みを感じています。

湯野浜温泉で源泉をとりに行った時の写真です。写真のように飲泉を飲んだり、温泉にも入ってきました。
4. この研究のどんなところが楽しいと思いますか?
 世界初の発見が自分で出来てしまうことです。今までにも述べてきましたが、最新の機械により、従来では調べることの出来なかった多くの菌がこのメタゲノム解析によって調べられるようになりました。山形の源泉水から見つかった古細菌についても新たな発見であり、毎回面白い発見に驚かされます。今後研究を進めるにつれて、既存の資料のどこにもない新種の菌に出会える可能性も高く、そこから生命の起源と結びつく新たな発見も期待されます。
5.最後に一言お願いします。
 人間はこれまで培養できるたった1%の微生物の研究しか行ってきませんでした。培養方法が確立されていない99%の微生物についてはほとんど何もわかっていませんが、その誰も知らない世界について調べることはとても興味深く、楽しいです!
 以上、村上慎之介さんでした。どうもありがとうございました。
 次回はバイオプラスチックの研究をしている方を訪問いたします!お楽しみに!