今年も就職活動の時期にさしかかってきた。採用予定数が落ち込む中、就職サイトを読み込み、セミナー巡りに精を出す3年生も多いのでは。SFC CLIPでは2009年秋学期を通して、SFC生の就業意識と卒業後の働き方に焦点をあてた取材を行ってゆく。第一回目は、SFC生が就職後に困難に直面する可能性を示唆した小論文を紹介。

未来からの留学生が直面した「未来」とは?

SFCでは学生を「未来からの留学生」と位置づけている。これは、SFCで育つ人材は現状に合わせて生きるのではなく、自ら未来を切り拓いていく「先導者」であり、学生はその能力を開発するために未来からSFCに学びに来ているという考え方である。
 これはSFC設立当初から提唱されており、現在のSFCのカリキュラムでもその思想が謳われている。このコンセプトの画期的なところは、4年間で「法学」や「経済学」が学べます、という従来の学部とは違い、SFCが育成する人材の射程が、卒業後の未来までを含めているところだろう。SFCの教育は、学生が卒業後どんな未来を切り拓くかまでを含めて、初めて評価できるとも言える。
 ところが、SFCの卒業生がどのような未来を切り拓いているかというテーマについて、十分な議論が尽くされているかというと、そうも言えない。開設20年に満たない若いキャンパスであることや卒業生の進路の多様性が、単純な分析を拒否している。
 講義内容も多岐にわたるため、自分はいったい何を学びどこへ向かうべきなのか、SFC生なら一度は悩んだ経験があるのではないだろうか。今回紹介する小論文は、そんな悩める学生にとっては寒気を催すものとなるかもしれない。

特殊に難しい課題に直面する可能性が高い

『大学卒業生の就職と会社への初期適応過程』という小論文がある。榊原清則総合政策学部教授によるもので、SFC卒業生の転職動向と就業意識について調査したものだ。発行は2000年と古いが、その内容は取材班が聞き取りを行ったSFC卒業生の共感を呼んだ。

教授は論文の中で、まずSFC卒業生の転職率を調べ、顕著に高くないと結論付けた上で、卒業生に次の3つの特徴が見られたとしている。
1. SFC卒業生の多様性の高さ
 SFC卒業生の就職先は、業種や職種、会社の規模のどれをとっても集中するところがない。これには多元的な入試制度やカリキュラムの自由度が関係しているとしている。
2. 大学時代に習得したことや形成した価値・行動様式を直接的に実社会、特に会社に持ち込もうとする
 日本の大学生は、一般的に「大学と会社は別社会であるから、入社時点でそれまでの価値・行動様式を一旦白紙に戻すもの」と考えるケースが多い。しかしSFC卒業生は、大学と会社を別社会だと認識しない傾向があり、学生時代に学んだことをそのまま企業の中に直接持ち込もうとする。
3. 就業意思決定に際して、「職場」というファクターを重視している卒業生が多い
 これについては少し長い補足が必要だ。まず論文では、従来の日本の大学生の就業意思決定は、就きたい職務を重視する「職業の選択」か、会社の規模や知名度を重視する「会社の選択」の2パターンであり、これは学生時代を「学習モード」で過ごすか、「課外活動モード」で過ごすかによって決まるものとしている。
 砕けた表現をするならば、特定分野の勉強に精を出した学生が法曹や官僚といった「職業」を選ぶのに対し、サークル活動に興じた学生が大手マスコミやメガバンクといった「会社」を目指すイメージだろう。
・大学で勉学に励む「学習モード」→「職業」(仕事の具体的内容)の選択
・サークル等の活動に励む「課外活動モード」→「会社」(会社全体の文化や戦略)の選択
 これに対してSFCの卒業生は、「職業」や「会社」とは別に、「職場」(自分が働く場所の仕事内容や雰囲気、カルチャー)を重視する者が多く存在していたようだ。これは、SFCにおける学生生活の経験、特にグループワークを多用した問題発見・問題解決をダイレクトに企業に期待する意思決定であるとしている。

就職において職場を重視させる特殊な学生生活モード

何故、SFC生は「職業」「会社」ではなく「職場」を重視したのだろうか。これには、SFC独特の学生生活のモードが影響していると述べられている。
 これは、何日間も残留しながら、グループワークやサークル活動に没頭するような学生生活のことを指す。論文では、このような24時間キャンパスSFCの特徴を生かした学生生活モードを、「キャンパスライフモード」と呼んでいる。
 そして「SFCの大きな特徴は、キャンパスライフモードというSFCに独特の生活モードが少なからぬ学生の間に厳然として存在するという点であり、(編集部中略)3つの生活モードがすべて並存し、その限りで大学生生活のモードが多様であるという点である。」とSFCの学生生活全体の特徴について結んである。
・「キャンパスライフモード」→「職場」(自分が働く場所の仕事内容や雰囲気、カルチャー)の選択
 この、SFCの「場」としての充実を仕事にも求めたのが、「職場」を重視した就業意思決定と言える。インターン先の職場に馴染んでそのまま就職したり、ベンチャー企業の社長の人柄や職場の一風変わった制度に惹かれて就職するようなイメージだろう。そしてこの「職場」を重視した就業意思決定が、SFC卒業生に特殊な困難をもたらす可能性があると論文は示唆している。

職場を重視した就業決定が、初期キャリアの障害になる?

入社初期、個人はその会社に適応する過程で2種類のイニシエーション(=通過儀礼)を経験するという。仕事に慣れて、与えられた課題をこなせるかという「課題イニシエーション」と、その会社の文化に溶け込めるかという「人・文化イニシエーション」の2つである。
 従来の「学習モード→職業の選択」の場合、職業そのものに執着を持っているため、「課題イニシエーション」を乗り越えると会社に適応し、一方の「課外活動モード→会社の選択」の場合、会社組織にこだわった就職であるため、「人・文化イニシエーション」を経ると会社に適応できる。
 しかし、職場を重視した「キャンパスライフモード→職場の選択」の場合においては、両方のイニシエーションをクリアしないと会社に適応できない。
 このことから、「SFC卒業生は、他大学卒業生に比して組織への適応と社会化に関し特殊に難しい困難に直面する可能性が高い」と論文は指摘している。

SFC卒業生の反応

取材班の人間が複数のSFC卒業生にこの論文を紹介すると、「確かにあると思う」「昔の自分のようだ」といった反響を得た。SFC生は企業に適応できない、あるいは企業がSFC生に対応できていないといった議論がなされることがあるが、この論文の視点はそうした議論に有為な手がかりを与えてくれるかもしれない。
 次回以降の連載では、SFC生の就業意志決定とその後の働き方について、関係者へのインタビューや卒業生への調査を通して検証・分析を行ってゆく。

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