SFCのカリキュラムはサバイバル? 後編 -大学側からみた2007年カリキュラム-
2007年に導入された現行の未来創造カリキュラム。このカリキュラム改定の背景には、SFCの理念が十分に実現できていないのではないかという大学の問題意識があった。改定の経緯と内容を振り返ると、SFCのカリキュラムの難しさが浮き上がってくる。
2007年に導入された未来創造カリキュラム
SFCは2007年にカリキュラムを大幅に改定し、「未来創造カリキュラム」と呼ばれる、新しいカリキュラムを導入するに至った。旧カリキュラムとの変更点は主に3点ある。
1.研究会と卒業制作の必修化
2.卒業要件や進級要件の整理
3.メンター制度の導入
なぜこのような変更がなされたのだろうか。当時の学内機関紙『KEIO SFCREVIEW』(No.322-33)の特集「未来を創造せよ! -SFC新カリキュラムの全貌」にその経緯が詳しい。この記事中の教員へのインタビューを整理することによって、今度は大学当局側の目線からカリキュラム改定を見つめてみる。
1.研究会と卒業制作の必修化
現在必修となっている卒業制作だが、実は2007年までの旧カリキュラム下では、強く推奨されていたものの必修ではなかった。研究会に所属せずに卒業することも可能であった。「なんでもできるが、受身では何も身につかない」と形容された、SFCの特徴を端的に示す制度である。だがこの仕組みに関して、当時の大学当局は問題意識を持っていたようだ。特集記事のインタビューで当時の冨田環境情報学部長(当時)はこのように語っている。
学生が卒業制作を履修しなければ、学生生活における学習の内容を問われるという、就職活動の場面が想定される問いに対してまともに答えられない可能性があるということを大学として認識していたように取れる発言である。また、冨田教授はこのようにも語っていた。
この発言からは、卒業制作を履修せずに卒業する学生は、自分の専門分野を持たない、SFCの卒業生としてふさわしくない人間であるとの考えが読み取れる。そこで研究会、卒業制作を必修にしようというわけだ。同記事では小島総合政策学部長(当時)がこのようにも述べている。
これらの発言を総合すると、SFCとして学位を出すのだから、卒業生の品質保証が必要である。しかし、自分の専門性を持たない、SFCの卒業生としてふさわしくない人間も存在していて、SFCの理念を十分に実現できていない状況がある。だから卒業制作と、そのプラットフォームとしての研究会を必修にして、その人なりの専門性を持ってもらおうという論理である。この専門性に関しては、別の教員が
と発言するなど、専門性を深めないまま学際的な活動に手を染めようとする学生への危機意識が見て取れる。SFCの理念を反映した自由度の高いカリキュラムが、実際には必ずしもうまく機能していなかった状況があったようだ。
2.卒業要件や進級要件の整理
卒業制作と研究会が必修になったほかにも、進級要件・卒業要件が変更された。それぞれ卒業のために8科目分必要だった専門科目やクラスター科目が先端導入・先端開拓科目へと改められる一方で、学習のきっかけ作りとなるような必修科目が増やされている。この変更の狙いについて、ある教員はこう語っている。
クラスターによるカテゴリー分けがなされていた旧カリキュラムでは、うまく履修を組み立てられない学生が「たくさん」出てきてしまうので、学生時代の前半においては大学がある程度は授業を指定し、勉強のステップのお膳立てをしようというものである。こうした学生を「迷子の学生」と呼ぶのは、実はこの連載による命名ではなく、当時の冨田環境情報学部長の発言によるものだ。
当時の学生が自分のカリキュラムを組むことができない理由については前回でも考察を行っており、学生側のみに責任を求めることは酷かもしれない。しかし大学側は「自分の力でカリキュラムさえ組むことができない人がいる…」と、一部の学生に失望していたようだ。こうした事情から、「迷子の学生」に対する履修の支援制度として、新たにメンター制度というものが導入された。
3.メンター制度の導入
入学時に履修のアドバイザーとしての担当教員を割り当てられるアドバイザリーグループ制度の代わりに、新たに導入されたのが「メンター制度」だ。この制度では、入学三期目以降に学生がメンターとなる教員を選ぶことができ、また研究室に所属するとその教授がメンターとするなど、より学生の状況に即したアドバイスができる制度へと改められている。
特集記事では、自己責任で履修科目・研究テーマを決めなければいけないことを不安に思う学生がいるのでは、という問いに対し教員がこう答えている。
「それはそのとおりだと思います。そこで、新カリキュラムでは、そのような学生の不安を軽減すべく『メンター』制度を導入します。」
「そのような学生」と質問を受けていることからもわかるとおり、この制度は「迷子の学生」に対する支援策としての位置づけられているようだ。
現役学生からの聞き取りでは、「メールでアポをと取るとすぐに相談にのってもらえた」「面談の履歴を適当に書いたら、先生にぶちぎれられた」といった、メンター教員とのコミュニケーションが図られている状況が伺えた一方、「面談をやるそぶりがない」「(制度は)若手教員の理想先行と言っていた」「義務ではないと聞いたから一切面談はやっていない」といった声も聞かれ、学生や教員によってその取り組みがまちまちであることに変わりはないようだ。
SFCのカリキュラムの自由度
これまでSFCのカリキュラム改定の経緯と狙いを振り返ったが、浮かび上がってくるのは、多様な分野を自由に選択できるキャンパスならではの学習の難しさに、適応できない学生の姿である。具体的にどのくらいSFCのカリキュラムは自由度が高いのだろうか。自由に選択できる科目数の割合を他学部と比較した。


※SFCのうち、第2学年への進級要件である創造実践科目・先端発見科目4単位分については、その区分の中で授業が選べるものの、SFC GUIDE上で「必修」と表記されているため必修科目にカウント。
SFCには、「ナレッジスキル科目」といった履修する授業の区分を制限する仕組みこそあれ、必修科目は12単位分のみである。基本的に当人の意思で選べる科目の割合は74%に及び、6%弱の他学部とは大きく差がある。さらに他学部には、選択必修科目と呼ばれる、「法律学」や「理学」「工学」といった学問体系に位置づけられる選択科目がかなりの割合を占めるが、SFCではそれらを抱合する分野の543科目にも及ぶ科目から授業を選ばねばならない。さらにSFCには、塾内他学部の科目や大学が認めた他大学の授業についても、60単位を上限に卒業要件に数えてもよいというこのキャンパスだけの特則もあり、履修選択の幅は他学部と比べ物にならないほど広い。
冨田環境情報学部長(当時)が「必ずやりたい研究がみつかります※」と喧伝した通り、必ずしも入学時に「法学」や「経済学」といった自分の専攻分野を決めなくともよいところはSFCの特長の1つだろう。しかしそうした学生は入学後、他学部の学生が大学受験時に決めてしまっている自分の軸となる分野を定めるところから始め、その軸を突き通すためのカリキュラムを自らデザインし、卒業制作を作り上げるプロセスを、4年間でやり通すことが求められるのだ。
もしそれができずに「迷子の学生」となってしまうと、就職活動がうまくいくかどうかは別にしても、自己アピールの面で苦労する羽目になるのかもしれない。
もっとも、卒業後10年以上が経過した卒業生への調査からは、SFCで得た専門性がそのまま仕事に役立つわけではなく、SFCで身に着けた積極性や人との出会いがが役に立っているという意見も聞かれるので、必ずしも大学の狙い通りにカリキュラム運用ができないと駄目だと考える必要はないだろう。しかし、SFCの自由なカリキュラムには相応の難しさ・厳しさが伴っていることを、受験生、新入生の段階で各々自覚しておいた方がよいのかもしれない。
- KEIO SFC REVIEW No.32-33:
http://gakkai.sfc.keio.ac.jp/review/contents/32.html#32-18