「SFCの学生って、どんな会社に就職するの?」そんなことを尋ねられて困った経験がある人も多いのではないだろうか。SFC生の就職先にはどのような特徴があるのだろう。後編ではこれまでの就職先の業種傾向を振り返りつつ、直近の就職実績を整理した。

3名以上就職先の業種割合

大学の伝統から生み出される卒業生のイメージ

伝統ある有名大学は、その大学ならではの学生像や卒業生像を持っていた。これは大学で学ぶ者が、継続的に同じような学生生活や卒業後のキャリアを体現していくことにより、「○○大の学生」「○○大卒」というイメージが世間に定着した結果である。東京大学経済学部を経て大蔵省へ入省する、慶應義塾の経済学部を経て総合商社や都市銀行へ就職する、早稲田大学を卒業してマスコミで活躍するといったキャリアを体現した卒業生は「いかにも○○大出身」という視線を向けられた。
 今や、経済をめぐる状況が様変わりしており、優秀な卒業生が官庁を目指さず外資系の証券会社やコンサルティング会社を目指すようになったというように、就職をめぐる状況も時代に合わせて変化しているが、こうした伝説を駆逐するには至っていない。
 SFCは紛れもなく慶應義塾という日本の伝統ある有名大学のキャンパスなのだが、既存キャンパスとは異なるコンセプトをこめて設置されたため、その卒業生には必ずしもこれまでの「慶應卒」のイメージを準用できるわけではない。また、開設20年という歴史の短さ、卒業生のキャリアの多様さから、「いかにもSFC卒」というキャリアのイメージが、キャンパス内においてもしっかりと共有されていないのが現状ではないだろうか。しかし、丹念に見てゆくとSFCなりの特徴があるのもまた事実である。後編の今回はこれまでのSFC生の就職先の状況を振り返りつつ、直近の就職実績を業種別に見てゆこう。

一期生(’94年卒業)の就職動向

開設初期のSFC生の就職動向を教えてくれるのが、SFCの学内ニュースレター「パンテオンvol.5No.1」(1994年6月3日発行)である。「就職状況について」という見出しで花田光世総合政策学部教授が一期生の就職先の特徴をまとめている。内容は以下の通り。

1. 総合政策8割弱、環境情報7割の就職率  卒業生の947名中、20%の189名が大学院に進学し、就職率を押し下げている。進学者中68%の129名がSFCの大学院に進学。 2. バランスのとれた均等分散型の就職  業種別に就職動向をみると、総合政策学部では金融保険業が最も多く就職者の3割を占めているが、それでも三田の既存学部に比べると低い割合。環境情報では製造業が最も多く3割を占めるが、女子に限定すると製造業・商業・教育サービス業に均等に分散、金融保険業が少ない。 3. 総合政策の銀行、重厚長大離れ、総合商社志向  総合政策学部の金融保険業への集中が三田の既存学部よりも少ない原因は、銀行・信託への就職率の低さで、保険業界では大きな違いがない。また、93年5月に実施した就職希望調査の上位20位においても都市銀行は一行しかなく、銀行を希望する学生そのものが少ない。9大総合商社への就職比率が学部別で一番高く、電気機械への就職も多い。 4. 環境情報の放送広告と情報サービス志向  環境情報学部の教育・サービス業への就職比率の高さは、放送広告業界、情報・調査サービス業への就職によるもの。総合政策学部以上に電気・電子業界への就職率が高い。総合商社への就職も三田の既存の学部に比べて高い。 5. 企業規模でも分散型  慶應義塾のこれまでの就職パターンとして数少ない企業に集中して就職するという、顕著な特色があったが、SFCでは業種でみても・企業規模でみても非常に平準化している。 6. 人気企業には集中  就職先の分散傾向は、SFC生が人気企業に就職できなかったためではないかという見方もできるが、SFCの学生は三田の学生以上に人気企業に集中しており、企業の敬遠の結果ではない。SFC生が自らの意思で多くの企業に分散していったと考えるのが妥当。 7. SFCと三田キャンパスの比較とまとめ  人気企業は押さえつつも、規模・業種を問わず多くの企業をカバーする。革新型・情報産業を志向し、進学率も高い。SFCの教育理念を反映した就職状況である。

一期生の就職動向をまとめると、三田の学生は特定の業種・企業に集中する傾向があったが、SFCの学生は三田の学生が志望するような人気企業は抑えつつも、業種・規模にとらわれず様々な企業を志向している。三田と比べると全体としては電気機械産業への就職比率が高い。学部別では、総合政策学部においては総合商社が多く、金融機関への就職者も一定数いるものの銀行が少ない。環境情報学部においては、マスコミ、情報・調査サービス業への就職が多い。また、進学率も2割と高いというものであった。

90年代後半のSFC生の就職先の特徴

次に整理するのが98年時点の状況だ。この年にSFCが外部評価を受けていたためか、就職先の動向についても情報が多い。
 就職先を業種別・規模別で見てSFCならではの顕著な特色が出ていたわけではないが、全般的にみて教育・マスコミ・公益・サービスの比率が高く、増加傾向にあった。個別に見ていくと、外資系ソフトウェア会社・放送局・エンタテイメント会社などが就職先の上位に来ているところがSFCの特徴であったという。この頃から大学院修士課程修了者が社会に出始めるが、進路の特徴は、大企業への就職だけでなく、専門子会社・中堅企業・NGOなどそれまでの専門性を生かしたところを選ぼうとする傾向が見えていた。起業を含めベンチャーへの就職者も多かったようだ。
 今、SFC出身者が設立したベンチャー企業やNPOとして有名な組織は、この時期の設立が多い。例えば楽天の副社長を務めた本城慎之介は96年の4月に現社長の三木谷と出会い、97年に楽天市場を設立している。日本最大のレシピサイト「クックパッド」は、環境情報学部出身の佐野陽光によって1997年に設立された。プレイステーションゲーム『XI[sai]』を開発した杉山雄一は、99年に冨田研究室のメンバーで構成されていた開発チームを有限会社化。面白法人カヤックも98年の設立だ。

近年の傾向

3名以上就職先の業種割合

では、近年の傾向はどうだろうか。今回は08年の就職実績を取材班で業種別に学部間の割合を整理した。使用したデータは前回と同じで、就職先の企業名が判明している3名以上就職先への就職者は全塾で3839名。うちSFC生は503名で、占める割合は13.1%である。また、就職者そのものが少ない業種では偏りが大きく出てしまうので、全塾で就職者数が100名以下の業種は参考データとした。個別業種における就職先企業と就職人数が、以下のエクセルファイルを参照頂きたい。
[SFC生の就職を考える]第8回資料

3名以上就職先への就職数と割合

一番割合として高いのがメディアへの就職者だ。この年、リクルートへ15名、電通へ13名、日本放送協会(NHK)へ5名、フジテレビ2名、テレビ朝日2名など、合計50名のSFC生がこれらの企業へ就職し、全塾での就職者中の約2割を占める。SFC全体で見ても、3名以上就職先への就職者数は503名であるので、就職先の捕捉できたSFC生のうちの約1割を占めている。
 次に多いのはコンサルティング業界への就職だ。アクセンチュア9名・野村総研5名など、合計で24名のSFC生がこの業界へ進んでおり、塾内での比率は18%強。AERAの2008年1月28号には

 アクセンチュアの就職者数は上位から慶応、早稲田、東京と続く。現社員でも人気の戦略部門では、慶応のSFC(湘南藤沢キャンパス)の出身者が目立ち、全体の1割を超えるという。一方、同じ戦略部門でも官公庁担当は東大出身者が多数派だ。

と書かれており、一定数のSFC生がこうした職種についていることは確かなようだ。
 それから電気機械、情報・通信業、輸送用機器・部品と続くが、割合は13%前後と塾内におけるSFCの割合とそれほど変わらない。また銀行・証券・保険など金融業界は、採用人数自体が多いため、SFCから就職する人数も一定数あるのだが、全塾の中で見ると9%前後と、SFC生の割合は少なめだということがわかる。
 特徴的なのが全塾での就職者数が100名以下の業種だ。楽天やヤフー、グーグルといったネット関連企業ではSFC生の割合が34.5%を占める一方、鉄道や電力会社などのインフラ企業への就職者の割合は2.2%と非常に少ない。比較するには母数が少なすぎるため、この数字から何かを意味付けることはできないが、どこかSFC生の志向を表しているように思われる。

メディアでの就職先への言及

最後に近年のSFC生の就職先の傾向について、外部からはどのように見られているのかさらっておこう。まずAERA2010年7月26日号「就職力バツグン伝統代の新学部」。この記事においてSFCは「情報通信分野や新産業に人材輩出」という見出しで紹介されている。
 國貞文隆(2010)の朝日新書『慶應の人脈力』には、「企業家が輩出するSFC」という見出しの頁で「卒業後の進路として、すぐに企業に就職するだけではなく、起業するという選択肢を抵抗無く受け入れたれたこともSFCの特徴」と書かれている。また「SFCと社会企業家、農業」の頁には「慶應SFCはITベンチャーだけに強いわけではない。最近拡がりをみせる社会企業においてもリードする立場にある」ともある。その分野でのSFC卒業生の活躍を紹介している。
 11月10日に発売された中西茂(2010)の中公新書クラレ『異端の系譜慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス』にも、SFC生の就職先について取り上げた頁がる。慶應では伝統的に金融機関の就職者が多いが、SFCには金融機関への就職者はいるものの、それ以外の企業も就職先の上位につけてくること、直近の年度では10名以上のSFC生が就職した企業が楽天と野村総研だけであることなどから、SFC性の就職先の多様さを示唆する。
 やはり外から見るとSFC生の就職は、さまざまな分野で独特の活躍を見せる卒業生の姿から、新産業・IT・起業・社会起業・多様といったキーワードを通して見られることが多いようだ。確かにこうした傾向が開設初期からこれまでの就職先の分析を通して得られる視点と一致する部分もある。一方で直近の塾内の進路データからは、メディアやコンサルティング業界など、SFC生が高い割合で塊となって就職する業界も見られたものの、他学部とそう変わらない就職先へ進む学生もまた多いことがわかる。
 際立つのはSFC生の進路の多様さであるのだが、大きく全体を見ると伝統的な学部と同じような就職はしない(あるいは出来ない)わけでもない、アンビバレントなキャンパスのようである。
文責:特集主幹 平野(07総卒)