帰ってきたスズカン! 鈴木寛教授に突撃インタビュー
2月1日(土)、元参議院議員の鈴木寛氏(以下、鈴木教授)が慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に就任した。 鈴木教授は99年から01年3月まで環境情報学部助教授を務めていた経歴がある。13年ぶりにSFCの教授になった鈴木教授にその社会への問題意識や教育への理念について、インタビューを行った。
–政治家のキャリアを経て再びSFCで教鞭をとることになった今回、どのような授業を開講しようと考えていますか?
ソーシャルイノベーションや新事業創造についての授業をします。前回は、情報社会におけるメディアについての授業を行ってきました。今回は、情報社会でおこる社会変革について皆さんと一緒に考えたいと思っています。
また、研究会では情報社会におけるソーシャルプロデュースという前回と同じテーマで行います。
政策もメディアも社会を変える力があります。これからはその両方を合わせて考えなければいけないと考えています。
–授業や研究会は、どのような形式で行う予定ですか?
私の研究会では徹底したProject Based Learning(問題解決型授業)を行う予定です。できれば一部の通常授業でもできたらいいと思います。
実際のプロジェクトに関わることのひとつのメリットは、人間を知ることができるということです。プロジェクトを動かしているのは人ですから、必然的に人と関わることになります。学生にはそこから、生身の人間というものへの洞察を深めてほしいと考えています。
また人間を成長させるのは、実際の問題に関わるときだけです。リアルなプロジェクトというのは葛藤やコンフリクトの塊です。それをひとつひとつ解きほぐしていくことでプロジェクトは進んでいく。この繰り返しだけが人を成長させます。
私の教え子のなかからたくさんの起業家が生まれました。彼ら彼女らはプロジェクトの葛藤やコンフリクトから逃げず、むしろそれを背負い込んでひとつひとつ解決していました。私はそういう人が社会の先導者になると思っています。
–情報社会は13年前に比べて進行していると思います。以前SFCで教えていた時と今の情報社会の変化について、鈴木教授はどのように考えていますか?
13年前、私が通商産業省にいた時、ネットワークインフラの整備に携わっていました。当時と今の違いは、インフラの制約がほとんどなくなってきているということだと思います。
例えば、私が政治家になった2001年頃からスズカンTVというものを始めました。ただ、この時はいろいろな機材が必要で、だれでもできるというわけではありませんでした。でも今はネットワークインフラやデバイスが進化して、学生でも動画制作や配信ができるようになりました。
以前、僕はインフラやデバイスの進化によって、個人がインターネットテレビ局を持てる時代になると教えていました。インフラやデバイスの進化が進むと、次にその上でなにをするのかが問題になります。いかにより興味深いコンテンツを作るかが鍵になる。そのためには情報にアクセスしたり、情報を編集したりする能力が求められます。
–今後もその能力の重要性を学生に伝えていくということでしょうか?
そうですね。いわゆる情報革命にはインフラの革命、人間側の情報編集能力の革命の2つが両方必要になります。私は情報化以後の社会を担える人材育成の重要性をずっと唱えてきました。これからは工業社会型の人材や組織とは別のものが求められます。情報社会の人材育成とはなにか? そのような人材が能力を発揮できる組織の形態とは? そういうことをみんなと一緒に考えていきたいと思います。
–みんなと一緒に考えたいという言葉が印象的でした。教員時代から政治家時代を通して教育について考えてこられた鈴木教授ですが、これからの教育というものはどういうものになっていくのでしょうか?
今は工業社会から情報社会への過渡期です。社会は情報社会を担える人材を求めているのに、高校や大学の多くではいまだに20世紀型の暗記積み込み教育が主流です。暗記積み込み教育では情報社会を担える人材が育ちません。
情報の取得を例にとれば、ネットやソーシャル・メディアを使いこなして情報を積極的に取得する人たちと、ただ与えられる情報を受け取っている人たちがいます。これから訪れる情報化社会でも、何かを積極的に取得する人たちが求められるのです。
いままでの状況を変えて、Active Learnerを育てること、これが私の関心でした。政治家として活動していたときも、劇作家の平田オリザさんとコミュニケーション教育推進会議を立ち上げるなどいろいろな活動をしていました。
これは国内だけでなく、新興国にも当てはまることです。彼らの社会もこれからどんどん情報化が進みます。これからはActive Learnerをいかに育てるかが問題になります。
Project Based Learningという点では、SFCは最先端を切り開く大学として成功していると思います。SFCではProject Based Learningやワークショップ型の授業が普通に開講しており、Active Learnerを育てる環境や人材が揃っています。これをどう一般に普及させるかが問題です。言い換えれば、いかに普通の学校をSFCのようにするかということですね。
–そのような情報社会以後の人材や組織を増やすためには、上の世代の支持も必要になると思うのですが、それを得ることは可能なのでしょうか?
情報社会以後の社会に適応できるかというのは、世代の問題ではないと思います。
これは単純にアクティブに情報を求められるかどうかが問題です。例えば、昔から本を読んで積極的に情報を得ていた人は、いまネットでもいろいろな情報を手に入れています。問題は与えられた情報をただ受け取るだけの人達です。ネットを使っていたとしても、そこで積極的に情報を得ようとしていなければ意味はありません。
ネットというのは社会のレントゲンだと私はずっと言ってきました。つまり、ネットは社会のもっていた特徴を際立たせるということです。昔から積極的に情報を得ようとしてきた人とそうでない人がいました。ネットによってその間の溝がさらに広がっていくでしょう。
その溝を埋めるために、全ての人が学び問うことを始める必要があります。
一言で言うとメディア・リテラシー、あるいはソーシャル・リテラシーが求められるということです。
ネットというメディアはマスメディアとは違い、情報の質の差がとても激しい。すごくいい情報もあれば、あまり良くない情報もある。自分でいい情報を探し、見つけたものが本当にいいものかどうかを見極める力が求められます。
ソーシャル・リテラシーというのは、社会の成り立ちについてちゃんと知っているかどうかということです。自分がいる狭い世界しか知らなければ、さまざまな情報の真贋は見極めることはできません。自分が知っている範囲の外の世界があることを知り、それがどういう風に構成されているのか、それを知ろうとしなければなりません。
–鈴木教授は学問の世界と実務の世界を往復していらっしゃいますが、どうしてですか?
僕がやりたいのは、本当の社会科学をつくることです。経済学はトレードオフをどうするか、政治学は矛盾をどう扱うかを、文学は人間の葛藤を扱う学問です。しかし、いまの日本では社会科学や人文科学の重要性は理解されていません。だから私は社会科学の人間として、実務と社会科学を架橋したいと思っています。
実際にそれを行った人として、SFCを設立に大きく関わられた加藤寛元総合政策学部長がいます。加藤先生は学者として政治に大変深くかかわられた方で、そして福澤諭吉先生の実学を体現した方です。私もそういうことがやりたいと思っていました。
以前、SFCで教授をしていた時に考えていたことは、だいたい政治家をしていた10年間で実現しました。しかし、社会問題はますます難問化しており、そしてそれを解決するための人材が不足しています。だから私は、解決するための知や学問を学び、同時に一緒に学ぶ学生を育てることで、その知を実践する人材を育成しようと考えました。
–最後にこれから学びに来る学生に求めることはありますか?
全社会の先導者を育てること、これが慶應義塾の目的であり、それを再興したのがSFCです。13年前から私は同じこと言ってきました。
前回の鈴木寛研究室では「情報社会の先導者になろう」という言いかたをしていました。そこで一緒に学んだ学生達がいま、ベンチャー企業で働いたり、起業家として働いたりしています。彼らは僕が言ったことを信じて挑戦し、やりぬいてくれました。まさに出藍の誉れです。先導者に、エポックメイカーになろうというテーマは、今でも変わりません。
この13年で起こったのは、あらゆる格差の拡大です。そういう格差のなかで取り残された人や社会や地域をどう引き上げたり、巻き込んだりするか。取り残された人たちとどう共に歩むか。このような問題が解決できれば、新しい時代がつくれることができ、そして新たな社会を切り開くことができます。
エポックメイキングは楽しいことです。もちろん大変ですが、多分人生で一番楽しいでしょう。大変でも最も楽しいことを楽しめる、そういう人生が歩みたい人に集まってほしいと思います。
–ありがとうございました。
【鈴木寛(すずき・かん)氏】
1964年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。通産省入省後、シドニー大学特別研究員山口県工業振興課、情報処理振興課などを経て、99年から01年3月まで慶應義塾大学環境情報学部助教授。第19回参議院議員選挙に東京選挙区から立候補し初当選。2013年、一般社団法人社会創発塾を設立。
現在、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授。また同時に東京大学公共政策大学院教授を務める。(クロスアポイント制度)