16日(日)、奥田敦研究会による「アラブ人学生歓迎プログラム(ASP)」が2週間にわたる全日程を終えた。アラブ諸国の日本語学習者を招聘し、学術交流に取り組んだ。
 「ASPにおじゃま!」第2回は、シリアからの招聘者ナダー・フサイニーさんに密着取材! シリアの教育に問題意識を持ち、ASPに参加したナダーさん。SFC CLIP編集部部員が、日本での学習を支援するチューターとなり、ナダーさんの内面に迫った。

明るくておちゃめ!? シリアからやって来たナダーさん

ナダーさんのプロフィール
年齢 26歳
出身 アレッポ(シリア第二の都市、北部に位置しトルコに近い)
拠点 アレッポ大学学術交流日本センター
専門 英文学
関心分野 教育
職業 中学校の英語教師

底抜けの明るさ―学生のモノマネで周囲を沸かす

ナダーさんを一言で表すとすれば、明るくて楽しいおちゃめな女性だ。キャンパス内で会う度、いつも素敵な笑顔で挨拶してくれる。シリアは現在内戦状態である。「内戦」という負のフィルターがあったため、ナダーさんの底抜けの明るさには驚かされた。非常にノリがよく、頻繁に奥田研の学生のモノマネを披露し、周囲の笑いを誘う。

「日本の学生と良い関係を気づきたい」みんなを気遣う優しさ

ナダーさんは「日本の学生と良い関係を築きたい」という思いを強く抱いている。チューターをあだ名で呼んだり、様々な人と積極的に関わったりする様子には、好感を抱いた。さらに、チューター以外の多くの学生の名前まで早い時期から覚えていたところや、忙殺されるチューターの学生を気遣う様子からは、ナダーさんの優しさがひしひしと感じられた。

妥協はしない―人に優しいナダーさんは自分に厳しく勉強熱心

レポート作成においては、どれだけ時間がかかっても妥協しない。睡眠時間を削ってでも自室で自分の考えたことをアラビア語で書き出すなど、非常に勉強熱心な一面が2週間のASP期間を通して伝わってきた。 

内戦中のシリアから”合法的”に日本に来るのは超大変!?

ナダーさんは、シリア内戦の影響で、合法的に出国して来日するためには、通常一般的に使われる経路とは別の経路を使用しなければならない。まず、アレッポから出発し、バスを利用して内戦の最中を通り、地中海に面した港湾都市タルトゥースまで戻る。普段であればアレッポからタルトゥースまでは約4時間で行けるが、今回はその倍の8時間かかったという。タルトゥースからはシリフケの港に向かい、そこから船で地中海を渡り、トルコのメルスィンへ。そこから再びバスでトルコを縦断し、首都イスタンブールに到着。イスタンブールには10日間滞在し、日本のビザを申請した。そして、イスタンブールから飛行機に乗り込み、やっと成田空港、日本に到着する。
 

シリアの学校は「つまらない」!?―自国の学校教育に問題意識 学校を楽しい場所に

ナダーさんはシリアの学校教育に問題意識を持っている。小さいころはアラブ首長国連邦(UAE)に住み、そこで学校が楽しいものであること、勉強が楽しいものであることを知ったという。しかし、シリアの学校では、学習方法が暗記や座学ばかり。シリアの人は皆、学校を「つまらない」と感じているようだ。だから、生徒は学校を嫌い、勉学に対する意欲もない。勉強しないことで、中学校さえ卒業できない人も多いという。
 そこで、中学校の教師であるナダーさんは、生徒が楽しく勉強できるような新しい教育方法を考えて実践することを目指している。人格を形成する役割も大きい教育は、これから良い社会を築いていくには絶対に欠かせない、と強く感じ、ASPに参加したというわけだ。
 

ナダーさんにインタビュー シリアの若者事情を聞いてみた

きっかけは日本のアニメと日本を伝えるテレビ番組

— ナダーさんはなぜ日本語の勉強を始めたのですか?

きっかけの一つはアニメです。日本のアニメが大好きなんです。小さいときによく見ていて、アニメに映る日本の生活はとても素敵だと感じました。そして、登場するキャラクターの考え方も好きです。彼らはとても頑張り屋で、どこまでも努力をしようとするイメージがあります。友達を大切にするところもとても好きです。
 もう一つのきっかけは、アラブで放送されている日本についての番組です。小さいときにテレビ番組で日本の文化や生活を見て、興味を持ちました。しかし、当時は日本語を見ても聞いても何もわかりません。わかるようになりたいと強く思いました。
 初めて日本語で「佐助」の文字が書けたときは本当にうれしかったです。これは、日本の子供向けの古いアニメに出てくる「猿飛佐助」(小説やゲームなどに広く登場する架空の忍者)のことです。このアニメはアラブ世界でとても有名なんです。

— なぜASPに参加して日本に来ようと思ったのですか?

ASPでは、様々な日本人の大学生とディスカッションをすることができます。さらに、ASPの学生はアラブの生活や人に興味があり、私は日本の生活や日本人に興味があり、互いに交流する大きな意義があります。話しやすく、たくさん言葉を習うことができると考えたから、ASPに参加することを決めました。

— SFCの環境はどうですか?

キャンパスがすごくきれいです。そしてなにより学生がとても優しい。たくさん手伝ってくれるので楽しいですし、様々なことを学ぶことができます。

— 日本で驚いたことはありますか?

人が優しいことですね。あとは、秩序が保たれていること、そしてみんな時間をよく守ることに驚きました。

— 今度はシリアのことについて聞きます。ナダーさんにとってのシリアの魅力は何ですか?

歴史があるところです。古い町やシリアで一番古いスーク(市場)があるので、アレッポが一番好きです。スークはとてもきれいで、美しいスカーフなどがたくさん売っています。アレッポ石けん(オリーブオイルと希少なローレルオイルで伝統製法により作られる)も大好きです。

— 学生時代、学校帰りに友人と遊びに行くことはありましたか?

はい! スポーツクラブやプール、公園によく行きました。とてもきれいな公園で、友人とよく遊びに行きました。ファストフードやシャウルマ(屋台で売られ、大きい肉を回転させてはがすように取り、薄いパンで野菜と一緒に巻いたもの)も友人と一緒によく食べました。
 ただファストフードは日本と少し違います。マクドナルドなどはシリアにはほとんどありません。シリア独自のファストフードのお店があるんです。

— 流行のファッションはありますか?

あります。でも、流行のファッションはシリアではとても高価です。ときどき安いお店で買う程度です。

— ナダーさんが好きなシリアの芸能人は誰ですか?

バーシム・ヤフールという男性芸能人が好きです。彼はコメディアンで、アラブ世界で有名です。私はコメディ番組が一番好きなんです。

アラブでは、ラマダン期間中に放送される「ハワーテル 改善」(衛星テレビ局MBC)という15分程度の番組があり、日本を絶賛して紹介しているという。日本ブームまで巻き起こした同番組に映る日本のイメージが、アラブ人にとっては強いとのこと。
 

次回は総集編! 招聘者、SFC生、先生がASPの2週間を振り返る

ASPにおじゃま! 第3回は総集編として、ASPで行われた様々なプログラムの紹介、ASP2014を終えた招聘者やSFC生、先生のコメントをお届けする。今年のASPではどんな成長があったのか。ASP第1回から関わっている先生の思いとは!? お楽しみに!