多彩な研究発表が見られるORF2014。「地震に『そなえる』」を出展する大木聖子研究会(以下、大木研)を取材した。大木研は、地震学・防災教育・災害科学コミュニケーションの研究に取り組み、今回のORFでは地震に対する防災をテーマにした体験型の展示を実施している。

自分だけ避難袋を持っていたら周りの目を気にする!? 震災時のジレンマ・意思決定を体験

訪れた人の目を引くのは、災害対応シミュレーションゲームのクロスロードと四コマ漫画の展示・体験だ。来場者が実際にクロスロードや四コマ漫画のセリフの穴埋めをするワークショップ形式になっており、自分が被災したときの意思決定を体験することができる。

クロスロードは、京大防災研の矢守克也教授らによって阪神・淡路大震災後に開発された。「あなたは被災者です。避難所での集団生活、いろいろと周囲の目が気になる。家から持ってきた非常用持ち出し袋をみんなの前で開ける?」といったジレンマ問題をYesかNoかの2択で迫る。もちろん、どちらかが正解というわけではない。現実に起こり得るジレンマに対して、Yes/Noを選択する難しさを体感し、今できる対策に目を向けさせることが大きな目的だ。
 四コマ漫画のセリフの穴埋めでは、「東京ミッドタウンでORF開催中に大地震が発生。家族に連絡もつかず、電車の復旧のめども立たない」という状況に対して、自分ならどうするか、またどのように思うかなど、細かい判断の内容を来場者が考える。どのような結論を出したとしても、安全や衣食住などの面において不自由が生まれてしまうことは避けられない。このとき、何に重きをおいて考えるかがポイントになっている。
 震災だけではなく、あらゆる災害が起こったときに、被災者は多くのジレンマを体験する。そのジレンマに対する意思決定を疑似体験することで、あす起こるかもしれない災害への「心の備え」そして「大切な人を守る具体的な備え」をすることができる。

あなたは誰にプレゼントする!? オリジナル防災マニュアルを配布

これらを体験すると、大木研オリジナルの防災マニュアルが来場者に配布される。対象者別に全5種類あり、「一人暮らしの人へ」「同居している家族へ」「離れて暮らす家族へ」「大切な人へ(男性編)」「大切な人へ(女性編)」というラインナップ。この防災マニュアルは、身近な誰かにプレゼントするという意図で作られている。どれか1冊しか持ち帰ることができないため、じっくり吟味して選ぶ必要が生まれる。「選ぶという仕掛けづくりもこだわりのひとつ」と大木聖子環境情報学部准教授が話すように、防災に対して受け身ではなく、自分自身でよく考えるという過程を大切にしている。
 

家族の安全を守る防災家族会議を

家族向けの防災マニュアルを手に満面の笑みを浮かべる岡本さん

「同居している家族へ」を制作したのは岡本理依さん(総1)と松尾壮一郎さん(環1)。4人家族は防災グッズをどのくらい備蓄すればよいのかという疑問をはじめ、同居している家族が、地震発生時に異なった場所にいる場合、どのような行動をとるべきなのかというシミュレーションなどを取り上げている。あらかじめ避難する場所を家族内で決めておくことで、家族の誰かが別の誰かを探すために、倒壊した家に行ったり、遠く離れた職場まで行ったりすることによる入れ違いを防ぐと同時に、家族の身に降りかかる危険を減らすことができる。岡本さんは「震災時に起こる、同居している家族ならではの問題を解消することができる」とアピールした。
 

防災を日常に溶けこませる工夫を考案

全8種類のドアハンガー型防災マニュアルを手に誇らしげな花岡さん

花岡直弥さん(総4)と家田哲也さん(環3)らが制作した「大切な人へ(男性編)」は、主に男子大学生がターゲットだ。防災に対してしっかりとした備えをしている人が少ない男子大学生に特化した防災マニュアルになっている。
 さらに、ドアハンガー型の防災マニュアルになっていることが大きな特徴である。「夜中に災害が起こった。どうする?」というメッセージが表からだけ見えるようになっており、ドアハンガー内部のポケットから紙を引き出すと、「ガラスの破片から足元を守るスリッパ。コンタクト使用者はメガネをすぐ近くに置いておく」という災害への備えが示される仕組みになっている。
 カタチにこだわった理由として、冊子形式ではあまり読み返すことがないのではないかという問題意識があるという。花岡さんは「もっと日常に溶け込み、自然と目に触れるようなものを目指した」とその狙いを説明した。

防災は大切な人と自分を守ること

大木准教授(中央)はとてもフレンドリー

「防災がなぜ必要なのか」という問いに対する答えの本質は、「大切な人と自分を守るため」だと大木准教授は強調する。この防災マニュアルを大切な人にプレゼントすることで、防災に対する備えだけではなく、大切なひとの安全を願う暖かいメッセージを伝えることができるのだ。

ぜひ大木研のブース「地震に『そなえる』」を訪れて、大切な人へ安心をプレゼントしてみてはいかがだろうか。