16日(日)、奥田敦研究会による「アラブ人学生歓迎プログラム(ASP)」が2週間にわたる全日程を終えた。アラブ諸国の日本語学習者を招聘し、学術交流に取り組んだ。
 「ASPにおじゃま!」第3回は、総集編として、ASPで行われた様々な活動のレポートをお届けする。今年ASP初参加となるSFC生、そしてASPに第1回から関わっている先生にもインタビューした。

11月4日(火) 中央農高訪問 和太鼓と餅つきで日本文化を体験

奥田研OBが教師として働いている神奈川県立中央農業高等学校(海老名市・以下、中央農高)に訪問した。この高校では、生徒が農業・畜産・園芸を学んでおり、農作物が栽培されている畑や家畜が育てられている現場を見学することができる。
 中央農高到着後、まずは同校の先生と高校生の案内で広い敷地を見て回った。畑がどこまでも広がる敷地内を歩いて、畜産見学へ。間近で牛や豚、ニワトリを見学し、高校生の好意で牛に直接触れる機会も得た。ここまで身近に多くの緑に囲まれ、動物と触れ合う機会は少ないようで、どの招聘者も興味津々な様子だった。

高校生のサポートで牛と身近に触れ合った。

次に、建物の中に入り、招聘者ごとのチューター班に分かれて、高校生とフリーディスカッションを実施。シリアからの招聘者、ナダー・フサイニーさんの班は、レポート作成のために「学校は楽しいか、楽しいならそれはなぜなのか」という議論を展開した。

高校生と微笑むナダーさん(左から4番目)

ともにディスカッションした生徒は、和太鼓部と野菜部に所属。日本人学生からしても、普段あまり関わることのない分野で活動をしている生徒であった。意見として「植物と携われ、自然に関わることができ、命の大切さを学ぶことができるから学校は楽しい」「食品加工の授業が楽しい」「和太鼓部に入っており、音楽をやることで、目標に向かって頑張ることを学んでいる」などが挙がった。新鮮な意見に、ナダーさんや学生は興味深そうに聞いていた。

日本文化のひとつ、餅つきを体験した。

ナダーさんは和太鼓体験に楽しそうな様子を見せた。

11月6日(木)1限 アラビヤ語インテンシブ3授業参加

6日、アラビア語インテンシブ3の授業に参加した。5つのグループに分かれ、グループごとに一人の招聘者にアラビア語でインタビューをして発表する、他己紹介に取り組んだ。週4コマでアラビア語を学んでいても、実践する機会は非常に少ない。履修者にとってはスキルを試し、自身の成長を感じる貴重な機会であった。
 簡単な質問からでも意外な一面が見えてくることがあった。日本人学生は特に使い分けせずに使用していたが、アラビヤ語にいくつかある「先生」という単語には、それぞれニュアンスの違いがあったのだ。日本では区別しないところに意味の違いを発見するという体験をした。
 また、ナダーさんの趣味が料理で、クッキーをよく作るという話からは、日本の女子学生と変わらない姿を感じた。

熱心にアラビヤ語を教えるナダーさん(奥田研より提供)

11月6日(木)5・6限 アラビヤ語ディスカッション

6日の夕方は、アラビヤ語ディスカッションだ。テーマは「日本とアラブの『わ』をつくるには、何をすれば良いか」。招聘者1人に対し、日本人3人という少数班に分け、参加者全員が濃密にディスカッションに関わることができる工夫がなされていた。
 ディスカッションでは様々な意見が出た。文化や習慣、考え、人柄は、言語を通して知る。互いの言語を学び、教育で新しい世代に教える。それが途切れることなく続き、「環」になるという意見。日本とアラブ、互いの文化や人を知るべきだ。そのために言語の学習、知る努力が必要である。百聞は一見に如かずで互いの国を訪れることで、「輪」を作ることができるという意見。それぞれ、自分の興味・関心から具体的に何をやるのかを考えているので、結論が多種多様であった。
 全く環境が異なるアラブと日本の違いを受け入れ合うのではなく、その2つの間にどうすればそれぞれが考える「わ」を作ることができるのか、ということまで考えるところに、ASPの唱える“学術交流”を実感した。

真剣にアラビア語で「わ」について話し合った。

11月7日(金)4限 「アラブ人の語るアラブ」イスラームとイスラーム圏

7日、奥田教授が担当する授業「イスラームとイスラーム圏(14)/現代文化探求(07)」で招聘者がプレゼンテーションを実施した。アラブに関するガイドブックはたくさんあるが、このプレゼンテーションでは、アラブ人が自分の国の好きなところを話す、というのが非常に目新しい。招聘者一人ひとりが母国の歴史や伝統工芸、建物まで多様な紹介をしていた。

学生からの質問に答える招聘者たち(奥田研より提供)

質疑応答では、日本の印象という簡単な質問から、日本人の行動にイスラム的なものがあるかどうか、という深い質問までたくさん挙がった。
 滞在中の日本の印象としては、日本の街はきれい、日本人は細かいところを気にする、頑張り屋が多い、食事が美味しいという好印象な意見が多数あった。日本人の行動の中に見られるイスラーム的なものとしては、他人に迷惑をかけないようにする、よく頑張ること、我慢すること、協力すること、ほかの人に敬意を払うこと、などが挙げられた。
 日本人の不思議な行動についても質問すると、ウマルさん(ヨルダン)が「ボトルに入ったお水が1本あったとして、ヨルダンの人はみんなその1本から飲もうとします。でも、日本人の学生さんは、その1本を私にどうぞとくれて、自分たちは別に買いに行ったり、自分は持ってますからと言ったりしてくれます。こういうことをヨルダンで経験したことがなく、不思議に感じます」と言い、意外な着目点に教室の笑いを誘った。
 また、「宗教に縛られている人生は窮屈ではありませんか?」というイスラーム教徒への質問に対しては、シャイマーさん(モロッコ)が「宗教によって縛られているというのは間違いで、むしろそれによって新たに開かれるものがあるんです。それが宗教です」とズバッと答えた。
 

11月7日(金)18時- 家庭訪問

チューター班ごとに分かれ、奥田教授や学生の家庭に訪問した。日本の家庭を実際に訪問し、夕食を食べることで、日本の家庭の雰囲気を味わった。手料理を食べたり、一緒に料理をしたり、家庭訪問での体験は多岐に渡った。

「アハランワサハラン!(ようこそ)」と言って、温かくもてなされた

11月14日(金)4限 日本語レポート最終発表 @イスラームとイスラーム圏

再び授業に参加。SFCの教員へのインタビューや学生・その両親へのアンケート調査を行い、作成された日本語レポートの内容は、たった2週間で仕上げたとは信じられない出来だった。それぞれの招聘者のレポートテーマは以下の通り。

名前 レポートテーマ(最終)
イスマーイール・ナイト・アブドゥッラー・ウアリー ITサービスの効率化をいかに実現するか -SFCを事例として-
ウマル・アブドゥッラー・アッシャマーイラ 言葉と美しさ-アラビア語の詩と俳句-
シャイマー・アラミー・メッルーニー 忍耐と豊かさ-日本とモロッコの比較から-
ナダー・フサイニー 2つの道徳教育-日本の小学校とシリアのモスクの教育を比較して-
ハスナー・アウワード 家庭における男女間の協力の重要性 -よりよい社会をつくるために-

アラブ人が日本で考察した結論は、日本人が自分自身を見つめ直す機会にもなっただろう。

堂々と日本語レポートを発表する招聘者たち(奥田研より提供)

11月14日(金)-15日(土) 富士山旅行

14日からはSFCを離れ、一行は富士山旅行に出かけた。
 1日目の夜、レクリエーションで「ASPかるた」が行われた。ASPの写真を使用したお手製かるたである。もちろん日本語だが、日本人に引けを取らない速さでかるたを取っていく招聘者には驚かされた。その後は、各班ほぼ徹夜で、日本語レポートを助け合いながら清書する姿が見られた。最後まで誰も気を抜かずに全力でやりきる姿に互いが刺激されているようだった。
 2日目は、富士山の4-5合目のハイキングをした。気温は低かったが、澄んだ空気を体いっぱいに感じながら、遠くに見える山々や街並みを見晴らすのは最高の気分だった。
 その後、野外博物館「西湖いやしの里根場」に向かった。茅葺き屋根の集落を見学し、陶芸を体験した。誰もが恐る恐る成形していたが、みな綺麗な形ができており、招聘者は日本語名を書き入れるなど、非常に楽しそうな様子だった。

ハイキングの途中での記念撮影(奥田研より提供)

ASP2014が終了 招聘者・学生・先生の思いとは

招聘者

ウマルさん「この2週間は本当に早かったです。お世話になりました。これから私は日本語の勉強をもっと頑張りたいと思います。アラブと日本の架け橋になります」

イスマーイールさん「この2週間は一生忘れません。もっと日本語の勉強を頑張ります。皆さんとまた会える機会があると信じています」

シャイマーさん「2週間、本当に早かった。楽しい時間はいつも早いです。ASPのテーマは『わ』でしたが、モロッコに帰っても『わ』はなくなりません。本当にありがとうございました」

ハスナーさん「日本に来るのは私の夢でした。この2週間は本当に夢みたいでした。私だけではなく、私の夫と息子のお世話もしてくださり、本当にありがとうございました。奥田研の皆さんは大きな家族みたいです」

ナダーさん「シリアは戦争状態なので到着するまで、本当に日本に来られるとは思っていませんでした。空港に着いたときは、ずっと見ていた夢の中にいるようでした。オリエンテーションに参加してみると、すごい努力を求められているようで心配になりましたが、蓋を開けてみると、奥田研の人たちがみんな良い人で、2週間を通して新しい家族になることができました。奥田研の学生みんなを兄弟や姉妹だと思っています。本当にありがとうございました」

別れを惜しむ招聘者たち(奥田研より提供)

初参加した1年生 楽しさに悔しさに多様な思い出

南奈緒子さん(環1)「夜遅くまで残るなど、とても大変だったんですが、招聘者の方が私が持ってる視点とは違う視点のレポートを書いていたり、文化が違う人とスキットを作ったり。とても新鮮で楽しかったです」

望月遥加さん(総1)「とても大変だったので、忙しいときの人間の心理というものを考えさせられました。悔しさが大きいです。スキットや日本語レポートをもっと良いものにできたと思うし、もっとディスカッションすることで、お互い良い言葉が引き出し合えたと思うんですよ。来年はもっと良いものを作りたいです」

齋藤夏海さん(総1)「私にとっては、自分の時間を他者に惜しみなく注ぐという行為が何より大きかったです。ASPに参加する前は、他人に対して尽くそうという気持ちがあまりなかったように思います。そんな自分に疑問を持ったこともなかったけど、周りに引っ張られて活動するうちに、自分の利益を追求することでは得られない、拡がりのある優しさが生まれることが分かりました」

ASP全体を統括する奥田教授

毎年本当に良い人たちが来てくれますが、今年の招聘者は特に前向きで辛抱強かった。実行委員の学生も一生懸命やってくれたので、非常に良いコラボレーションができたASPだったと思います。SFCの学生たちも学んだことや刺激が多かったのではないでしょうか。例えば、ハスナーさんは旦那さんと息子さんを連れて来ましたが、旦那さんは自分の仕事を一旦置いて一緒に来たということです。それって日本ではなかなか珍しいことですよね。男女の役割や関係の在り方というものを身をもって教えてくれたように思います。
 そして、今回は1年生がかつてないくらい大勢奥田研に入ってくれました。1つの学年に10人ぐらいが、しかもほとんどフルコミットで入ってくれることはあまりないのですよ。奥田研の法則からして、こういう学年が来たときは必ず新しいことが起こります。ASPが新しい段階に上り、さらに違う形のものが始まるんじゃないかという予感がしています。

第1回実行委員長だった植村さおり総合政策学部講師(01年入学)

今年はテーマが非常にやりやすかったです。それぞれに思っているものがあって、そんなに難しいテーマでもない分、参加しやすいテーマだったと思います。意識しつつ、けれど意識していないときでも貫かれていたという印象です。アラブ人招聘者も日本人学生もそれぞれに「わ」を考えていました。次からもそういう参加しやすいテーマを設定すれば、みんなをちゃんと巻き込んでいけるプログラムになるんじゃないかな、と期待しています。

絶え間ない「わ」がアラブと日本をつないだ2週間

このASP2014の2週間を通して、先生、ASP実行委員、そして招聘者全員が、隔たりなく仲睦まじい様子であることが印象的だった。招聘者は「奥田研のみんなは家族」という言葉をくり返し言っていた。別れの際に、涙ぐむ招聘者と学生も少なくなかった。ASP終了後もSNSなどを通じて、つながり「わ」が続いている様子も多々見受けられた。
 対話の「話」であったり、言語を教え合い助け合う「環」であったり、それぞれの国籍や宗教を超える平和の「和」であったり。人と人とのつながりの意味での「輪」も生まれたはずだ。自分たちの違いをふまえつつも、どうすれば良くなっていくことができるのか? それをASPの盛りだくさんなプログラムでとことん考え、学術交流を実現したことでやっと生まれた「わ」がそこにはあった。

お別れ会での最後の記念撮影(奥田研より提供)

奥田敦研究会の皆様、取材へのご協力ありがとうございました。