SFCにもう数年通っている方はバス列のすぐ側で、毎日のようにカウンターで人数を数えている学生を見かけたことがあるかもしれない。前回、バス列とキャンパスの問題についてインタビューをした、「tantan」のニックネームで知られている司隆さん(18年環卒)に、今回は混雑への情熱についてインタビューをした。

インタビューの前に、地下のファミリーマート横の階段から乗り場に行きやすい、系統の綾瀬車庫行きのバスをおすすめされた。キャンパスの手前で降りなければならないが、階段の下まで並んでいるようだったら、こちらを検討するのが賢い。

これに乗るのが、バス列の基本的な攻略法だ これに乗るのが、バス列の基本的な攻略法だ

—— まず、何がきっかけバス列の長さを測っていたのですか?

今までの僕の歴史を話しますね。2年の春に清木研究会に入って、JR東日本と共同で研究をしていたけれどデータが無くて。「混雑」というものがようやく測れる時代になったから、その計算式を考えてくれ、と清木先生に言われたんです。まずは、Ω館の前にある「バス列」という混雑から測ってみた、という感じでした。次の学期はその研究会は続けなかったけれど、「湘南台バス混雑予想作ったらアクセス稼げそうじゃない?」というツイートを見かけて、僕も春学期にやっていたし、みんなで測ってみるか、と思ってWebテキスト処理法という授業の課題でやりました。自分で測ってみたら、なんか楽しくなっちゃって。笑
その後は、情報系で今こういう活動をしているのは佐藤雅明先生がやっていると聞いて、彼のところで研究しました。そこで、インターネットの授業の履修者からアンケートを取って、列の長さのデータと合わせて計算してみたところ、輸送量上間に合わないことが発覚してしまい……

—— 「SFCは輸送量上1限遅刻者が必ず出る」の一文は強烈ですよね。

あれ強烈だったんですよ、おお、と驚いて。一年間くらい列を測って、季節変動を知りたかったんですけれども。それよりともかく、当時学部長だった村井純(環境情報学部長)に、この状態ではやばいよね、と伝えました。

ここがtantanさんの定位置だった ここがtantanさんの定位置だった

—— それから、どういう経緯でこのことをキャンパスの外で発表することになったのですか?

それでバス列の現状がどうなっているのか知って、ツイッターで発表したところ、伊藤昌毅先生という徳田研卒で、東大のCSIS(空間情報科学研究センター)の先生に、面白いことやっていそうだからと目をつけられて。ツイッター経由で。笑
その人のやっている交通ジオメディアサミットを聞きに行きました。

この頃どんどん、バス列って面白いなぁ、と思って。和田良子先生の金融経済ゲーミングの授業などを通して、経済的な目線でバス列を見てみたり。ネットワークコミュニケーション実践の授業を通して、みんなでバス列を測ろう、という参加型センシングの手法を思いついたり。まぁ、この方法で正確にデータを取るのは無理だったけれど。

—— さっきから見せていただいている資料、すごい量ですね。これはそれぞれサミットやツイッターなど見せる場所に合わせて作ったのですか?

以前、有澤研究会という、JR東日本との共同研究を専門にしている研究室があって、バス列をΩ館から測ろうというのが2007年まで行われていて、中断されてしまったんですけれど、データが何も残っていなくて。これを見た時に、10年間バス列に対して何も行われていなかったのだな、と思って、もっと色々な場所にもっと参加していって発表をしていこうと思って、資料を作成しました。

厳研の友人である土屋裕一くん(18年環卒)が一週間だけバス列を測るというやっていまして、しかもそういうのが好きだからか、その人は駅員みたいな服装をして、カチカチってカウンターを鳴らせていました。その時は仲間がいるのはいいな、と思いましたね。1人で測っていた時には、2人で測る約束なのに1人だけ遅れてきたりしたら嫌だな、とか思ってたんですけれども。1人で測っていると、ここからここまで何人並べるから、という風に概算で測るしか無かったけれど、2人いると、何分間に何人来て乗ったかが測れるようになったんです!

—— 厳研では他になにをやっていたのですか。

4年の春だから、これですね、バスライブ School Bus Project。名前もロゴも土屋くんが考えてくれて。Ω館から映像を撮っていたのですがカメラからデータを飛ばすのがなかなか難しくて。2階に上がった窓際からは無線がうまく届かなかったので、代わりに1階のスロープにある有線を使ったりもしましたが、結局うまくは作れなくて断念しました。恒久的カメラを設置するのは審査がきつくて難しかったので、30日ごとに申請を更新していく形で撮っていました。

卒業後も一瞬で人数を数え上げる力は衰えない 卒業後も一瞬で人数を数え上げる力は衰えない

ちなみに、この時にはこれがまだ大規模な課題だと気付いていなくて。第二回ジオメディアサミットで、それとCSISで発表して、自分の取ったデータが日本全国で見ても貴重なデータだと分かったんです。SFC特有の変な問題かな、と思っていたんだけれど。ただ、データを測った事に対しては、どちらの発表でも受けていたんだけれど、発展性があるかと聞かれれば無いので、だったら就職かな、と思って院に行かずに就活をしました。

その頃に、経済産業省が出した「不安な個人、立ちすくむ国家」という、若者にもっとお金を出さないとダメだ、といった内容の資料がツイッターでバズっていました。バスだって高齢者割引があるのに学生は冷遇されているし、自分の活動は世代間格差のキーワードとして広めないとまずいんだな、と気づきました。

—— 誰もが身近に感じている問題ですけれど、これを実際にやるのは大変なことですよね。

第一人者になると楽しいから。日本は「課題先進国」っていう見方があって。僕はその言葉が好きなんですけれど、他の国より進んで進んで、その先にある課題を解決できれば、日本は世界で評価される。それに、課題に最初に取り組んだ人が評価されるんです。

ただバス列研究には後継者がいないといけないという問題がありまして。パソコンからスマホの時代に移ったから、僕の研究を参照しながら、時代に合わせて作っていけばいいものになるんじゃないでしょうか。

—— これからバス列について研究する人には、他にどういうことをしてほしいですか。

科学は積み重ねで発展していくものなので、僕が地盤を作ったので、ここから違うものを作ってもらえばいいなと願っています。あえて言うなら、リアルタイムで反映するとか、使えるデータを作って欲しいですね。例えば、岡山のあるバス会社では実際に走っているバスの位置から遅延情報も加味してGoogleでの乗り換え検索ができるように、時代もその方向に進んでいます。検索で出てこないデータは無いも同然です。全世界の交通のデータを検索で出せるよう、Googleなどに、一箇所に集めることに意味があります。

バスに乗り込むよりもバス停の横にいる印象が強い バスに乗り込むよりもバス停の横にいる印象が強い

SFCの内向きには、学生による学生のためのアプローチはちゃんと継続しているから。バス列を見て腹立って、改善するものを作ろうか、という気持ちで挑んでもらって、外部に発表するなら内部で作ったものを、改善して出していけばいいかなと思います。

—— あれ、tantanさんも混雑に腹が立ったりするんですか! ずばり、tantanさんにとって、混雑ってなんですか?

賑わっている状態ですね。だけれど、行き過ぎて人が皆同じ方向だけを向いていると、集団心理が働いたり、スクールカーストみたいなものが出来たりします。そういうのが大っ嫌いなんですけれどクラスの団結を無くす、とかいう言い方だとすごくネガティブだから、これをポジティブに転じた結果が、混雑を解消するということなんだな、と3年くらいから考え始めました。

以前取り組んでいた観光は、根本的に人がいないところに人を呼ぶ取り組みなんですよ。それが混雑では、人が元々いるところから分散させるのだから、楽なんです。たくさんの人がいるっていうのはありがたい。だから、もっとありがたくするために、混雑に取り組んでいるんです。

—— ありがとうございました。

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