22日(木)-23日(金・祝)に六本木・東京ミッドタウンにて開催された「SFC Open Research Forum 2018」(以下、ORF)。SFC CLIP編集部では、「食料、水、エネルギーのネクサス」をテーマに研究発表を行った、厳網林研究会を取材した。

今回の展示では、近年の社会問題を”連関”の目線から分析し、結果がわかりやすい模型へ投影する展示を行っていた。

これからの環境問題への解決に取り組む

これまでは生活の質を高めるために、資源を消費していくという考え方が一般的であった。しかし全世界の人間が、現在の先進国と同じ生活をするためには資源が足りない。そのため、生活の質を向上させつつも資源の消費を抑える方針に切り替える必要があると考えている。生活の質をAHR (Accessibility, Health, Resilience) の3要素で決まるとし、資源の消費を分析するためにFEW (Food, Energy, Water) にそれぞれ着目。FEWのつながりを考え、AHRの向上に活かすことで環境負荷の少ない社会実現に向けた研究を行なっている。

具体的には、都市における緑被率や食料生産能力の評価、郊外住宅地の食料アクセス、生産能力の実態調査、農業集約地域の土壌や水質への影響調査など、その土地の性質や特徴に合わせた、より良い資源利用への働きかけを行うためのデータづくりを行っているそうだ。

数値から平面に、平面から立体に

今回の厳網林研究会のブースでは、2つの大きな模型が目を引いた。普段は分析結果を平面的な地図に落としこみ可視化を行っているが、地形状況など地域の特徴がみえる立体模型に落とし込むことでよりわかりやすく、親しみやすいデータの可視化ができるのではないかという試みであるという。

移動しやすい郊外住宅地を考えていく

地形と建物を再現した模型に分析結果を投影していた 地形と建物を再現した模型に分析結果を投影していた

模型のひとつでは丘陵地帯に開発された住宅地である、たまプラーザを対象にした公共交通機関へのアクセス性の分析結果を展示していた。当初開発の段階ではバス停までを徒歩圏として設計された地域だが、加齢による行動範囲の縮小を想定していないのではないかと考え、実際に公共交通機関へのアクセス性が減少している様子を展示していた。

バス停からの運動負荷を可視化する バス停からの運動負荷を可視化する

ここでは模型を使用したことで傾斜が急な土地であること、傾斜により体力が低下した人はより強い付加がかかり行動範囲が縮小していることが顕著に表れていた。このようなデータをもとに、開発団体や地域住民への啓蒙にあたり、個々人が資源にアクセスしやすく、環境負荷の少ない街づくりに向けた動きに繋げていきたいそうだ。

都市部のどこに緑があるのか

自然環境には大気の安定、食料生産、災害抑制、近年ではレクリエーションの場として活用されるなど、地域の環境だけでなく人間生活をより向上させる要素が多く存在する。しかし、都市化によって緑地面積が大きく減少している。そこで、現在の都市にはどの程度緑地が存在し、地域にどのような影響を与えているか、緑地の位置を可視化することで知ってもらおうというのが二つ目の模型展示である。

等高線をもとに高低差を表した模型を活用 等高線をもとに高低差を表した模型を活用

対象地とした二子玉川では、開発しやすい平地にあった農地が商業施設や宅地となり、食糧生産としての資源活用は行われにくいことが表されている。一方で、開発された平地ではビル等の平坦な屋根を持つ建物が多く、商業施設の一部では屋上庭園など緑地の保全が行われている。このような緑地が実際に地域環境や人間生活の向上に効果のある緑地であるかを分析した結果を模型に表していた。

さらに対象地域では、多摩川河川敷と国分寺崖線にはまだ緑が残っており、問題視されているほどは緑地の現象が起きていないことも、模型を使うことで表現しているという。これら緑地と平地の関係性を表すことで、地元行政などに緑のあり方を見つめ直すよう啓蒙する活動に繋げていきたいと話していた。

右側の多摩川、左側の国分寺崖線に緑が残っている様子を投影 右側の多摩川、左側の国分寺崖線に緑が残っている様子を投影

より詳細な分析も

模型の他にも研究会ブース内では、対象地域に関する各学生の研究がポスターで掲示され、日々の活動が発表されていた。

多様な研究の成果が並ぶ 多様な研究の成果が並ぶ

今後もFEWのネクサスを分析していき、可視化したデータをもとに地域の様々な団体に働きかけていくそうだ。来年は、それらのフィードバックをもとにして、わかりやすくインタラクティブな模型作成にも取り組んでいきたいとのことだ。よりパワーアップした展示を来年のORFでは期待される。

関連記事

関連ページ