SFC CLIP編集部は、今年5月-6月に実施した「履修選抜制度に関するアンケート」への回答結果をもとに大学側へのインタビューを行った。多くの学生が不満を訴えている現在の履修選抜制度には、どのような背景があるのだろうか。回答結果の詳細とインタビューの様子を、前編・後編の2本の記事に分けてお伝えする。

エントリー締め切り、なぜ一括に?

今年(2017年度)春学期より、履修選抜エントリーの締切日が全曜日・全時限の授業において同日に設定された。これまでは授業曜日ごとに締切日が設定されていたため、学生にとっては影響の大きい制度変更になった。しかし大学側からこの変更の理由に関する説明は行われず、戸惑いの声も多かった。

これを受けて、SFC CLIPは今年5月-6月に「履修選抜制度に関するアンケート」を実施し、学生側の履修選抜制度に関する意見を募った。回答は5月19日(金)-6月2日(金)の期間に受け付け、回答数は91(うち有効回答88)だった。SFC CLIP編集部は、回答結果の分析とそれをもとにした大学側へのインタビューを行った。

「履修選抜制度に関するアンケート」結果

現行のシステム 約8割が「やや不満」「不満」

1つ目の「現在の履修選抜制度にあなたは満足していますか?」という設問には76%が「やや不満」または「不満」と回答し、「満足」「やや満足」は合計10%程度にとどまった。不満を感じる理由として最も多かったのは「取りたい授業が取れない」というもので、その後には「データサイエンスなどの必修科目が取れない」「抽選という方法自体が納得できない」といった理由が続いた。一方「満足」「やや満足」と回答した人はおおむね取りたい授業が取れているようだ。

「どちらでもない」という回答の理由の中には、「選抜に漏れても教員に追加許可してもらえるから」というものもあった。特に抽選選抜の場合、教員に直接連絡すれば履修が許可されるケースが少なくないようだ。

希望の多かった「複数科目へのエントリー」

「不満」「やや不満」と回答した人を対象とした「履修選抜制度にどのような改善を望みますか?」という設問に対して最も多かったのは、「1コマにつき2つ以上選抜を受けられるようにする」、あるいは「初回授業後に2回目の選抜を行う」といった、何らかの方法で選抜の複数回実施を望む回答だった。

また、他に多かったのは「以前の制度に戻してほしい」という回答だった。履修選抜の締切日を統一するという今回の変更は、少なからず混乱を招いたようだ。また、ショッピングウィークの復活を希望する声も少なからずあった。

「変更により制度が悪くなった」との声が多数

制度変更以前の履修選抜を経験している2016年以前の入学者を対象とした「履修選抜制度は、変更により良くなったと思いますか?」という設問では回答者の33%が「回答不可」を選択しており、回答者の1/3を2017年度の入学生が占めていることが分かった。新入生にとっても、履修選抜の問題は大きな関心事のようだ。この設問では、33%の「回答不可」者を除くと、51%の回答者が「悪くなった」、25%が「少し悪くなった」と回答した。その理由としては、「選抜の準備が忙しくなった」「以前のように曜日ごとの結果に応じて調整ができなくなった」というものが多かった。一方、「締切日・発表日が統一されたことで分かりやすくなった」という意見や、前述のような調整がなくなったため「全体的な倍率が下がってよくなった」とする声もあった。

同じく2016年以前の入学者を対象とした「履修の仕方について、制度変更の前と後で変わった点はありますか?」という設問では、「より多くのコマに選抜を入れた」や、「通る確率の高い授業のみを入れた」とする回答が多かった。選抜が一括で行われたことに加え、選抜のない授業が減ったことにより、受けられる授業が減るリスクを回避しようとする傾向が見られた。

履修選抜制度への理解の声も

一方、授業の質を保つためには、履修者に一定の制限をかけるのはやむを得ないという声もある。設問の後に設けた自由記述欄においても、履修選抜そのものの廃止を求める意見はそれほど多くなかった。生徒たちの不満は、「抽選という選抜方法では、本人の努力で改善できることに限界がある」ことにあるようだ。

制度変更のねらいは? 大学側にインタビュー

SFC CLIP編集部がインタビューを行ったのは、内藤泰宏環境情報学部准教授と湘南藤沢事務室学事担当の西原裕貴さん。聞き手は編集部員の土肥(総4)、薄井(総3)、坂田(総1)の3人。

可能な限り平等な抽選を より公平な履修選抜システムを目指して

—— 土肥: まず、今年度の春学期から履修選抜エントリーの締め切りが一斉になった理由について伺いたいです。

内藤准教授(以下、内藤): そもそも僕は、以前のように締め切りが曜日ごとに設定されていることが果たして適正なのかと思っていました。むしろ、それに対して全く文句がなかったことが不思議でした。ある日の選抜結果によって「翌日エントリーする科目を変えよう」とか「3日目まで結構いい感じに許可が下りたから4日目5日目はあまりエントリーしなくていいや」と行動することが、果たして学びの計画として真っ当だといえるのかということです。

学生の生活には授業以外にもサークルもバイトもあるというのは百も承知ですし、別に大学生だからといって勉強ばかりしていろと言うつもりはありません。ですが、カリキュラムを運営する側としては「学生の本分は学業ですよね」という立場に立つのは基本だと思います。少なくとも、学業をおろそかにすることをサポートするようなカリキュラム運営はしないということです。そんな立場からは、これまでの状態は必ずしも望ましいものではありませんでした。

その前提のうえでなぜ一斉締め切りになったのかという話ですが、以前の抽選では、SFC-SFSのバックエンドで、サイコロを振ったりくじを引いたりするのと同じ完全に無作為な抽選が行われていました。

例えば、倍率が2倍の科目があったとすると、4科目エントリーすれば2科目ぐらいは履修許可をもらえそうです。しかし本当にランダムに抽選すると、16人に1人は4科目全てに履修許可をもらえ、別の16人に1人は、1科目も履修許可をもらえません。16人に1人ならまあそんなものだろうと思われるかもしれませんが、SFCにはおよそ4,000人の学生がいるので、50人に1人くらいのとても運の良い人と、とても運の悪い人が毎学期数十人ずつ出ています。こうした状況は改善すべきでしょう。

極端に幸運な人も不運な人も出さず、先の例で言えば16人全員が2科目履修許可を得られるような仕組みを作れないかことになったわけです。そのためには、約4,000人の学生がそれぞれ何科目の履修許可を得られるべきなのかという数字を知る必要があります。月曜日から金曜日までの全開講科目のうちどの科目にエントリーしたのかということを知ったうえで、それぞれの科目の倍率とそれぞれの学生がエントリーしている科目が分からないと計算できません。そのためには締め切りを一斉にするしかない。それが、今回の制度変更の理由です。課題選抜も一斉締切で何とか捌くことができると判断できたため、一斉締切を実施することにしました。

西原さん(以下、西原): 誤解のないように言っておきたいのですが、「学事が楽をしやがって」みたいなことを言われることもあるんですけれども、まったくそんな意図はありません。我々に「履修選抜に全部落ちた」と強く言ってこられる方は以前からいたのですが、そういうことをなくすためには、どれくらいの人が抽選にエントリーしていて、どれくらい許可が下りるのが平均なのかを知ったうえで調整する必要がありました。それでこの仕組みを始めた、というのが一番大きいところではあります。

「履修選抜」という制度の限界

—— 土肥: アンケート結果によると、やはり多くの学生が履修選抜に対して不満を持っているようです。このことに関して学事としてはどうお考えなんでしょうか?

内藤: まず前提として、学事だけで何かを決めるということはありません。特に今回のような大きな制度の変更では、学生から学部長まであらゆる立場の人たちからの声を受けて、教職員で組織される「カリキュラム委員会」で対応を検討し、キャンパスの意思決定機関である「合同運営委員会」「合同教員会議」などで協議・承認されて実施されます。

今回の制度変更について不満があることに関してですが、僕自身も、「総合政策学」の「履修難民」というテーマでグルワをやっている学生や研究会の学生などからいろいろ話を聞きました。そのうえで僕が感じるのは、その「不満」の少なくとも一部は「変わったこと」自体に対してなのでは、ということです。「今までのやり方が通用しなくなった」ことに対する不満と言い換えてもいいです。

「変わる」ということに関してはSFCにいる以上お付き合いいただくしかないと思っています。27年前に創設された時からSFCは実験のキャンパスであり、学生のみならず私たち教員や職員たちを巻き込んでよりよい方向性を目指して変わり続けるキャンパスです。実験である以上は失敗することもありますが、失敗を恐れて変わることをやめてしまったらそこでSFCはおしまいだ、くらいに思っています。

—— 土肥: 失敗を含め、実験を繰り返して改善を試みるというのはよく分かりますが、学生の立場からすれば、決して安くない学費を払っていて、SFCも「やりたいことができる」ということを掲げているわけです。そうしたことを考えると、改善のためとはいえ「実験」に素直に納得できる学生は少ないような気もします。

内藤: その怒りはもっともだと思います。今回のアンケートでも、「同一時限に複数のエントリーをしたい」という声がありましたが、それも自由に授業が取れていないところから来ているのだろうと思います。ただ僕は、それは要求の方向性が間違っていると思っています。むしろ要求すべきなのは、特定の曜日時限に取りたい授業が固まっていることではないでしょうか。面白い授業が同じ時限でぶつかってしまっているのは、履修選抜では改善できません。もちろんできる限り履修選抜を改善したいと思っていますが、履修選抜で改善できる領域というのは結構限られています。履修選抜がみなさんの思い通りにいけばみなさんひとりひとりが思い描いた履修計画が実現できるのか、自分の時間割を眺めてよく考えていただきたいです。学生が声を合わせて要望すれば時間割そのものを変えることもきっと可能です。

西原: 卒業生として補足させてもらうと、我々の頃は、学年によって取れる授業が決まっていました。だから履修選抜はなかったんですけど、「この先生の授業を取るぞ」という気持ちでいざ入学しても、「それは3年生からですよ」となってしまうことがよくありました。逆に今は1年生から好きな授業が取れるわけですが、そうした制度のもとで適切な人数で授業を行うためにはどうしても履修選抜をせざるをえないんです。その意味でこれは表裏一体というか、みなさんの取りたい授業が思い通りに取れる制度をつくるのはなかなか難しいのです。その選抜が「抽選」という形で行われているために不満が募っているのでしょうが、一方でそうした裏もあることも理解していただきたいです。

—— (「『制度が悪くなった』との声が約8割 選抜エントリー締め切り、なぜ一括に?【後編】」の記事に続きます。)

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