「SFCらしさ」を再発見し、激変する社会におけるSFCの役割を見出す「復刻! CLIP Agora」。今回は、「大学生福島第一原発視察ツアー」(以下、福島第一原発視察ツアー)を主催している森雄一郎さん(総3)に話を聞いた。

福島県・広野町で現地の中学生向けに学習塾も開いている森さん。前編では、なぜ森さんが福島にコミットし、福島第一原発視察ツアーを行っているのか、今年8月に行われたツアーに参加したSFC CLIP編集長・原がインタビューした。

森雄一郎さん

森雄一郎さん

「大学生福島第一原発視察ツアー」とは

原:

福島第一原発視察ツアーについて教えて下さい。

森:

文字通り、福島第一原発の視察に大学生を連れていく、というものです。昨年の2015年11月に第1回ツアーを、今年の2016年8月に第2回ツアーを実施しました。視察には、一般社団法人AFW代表・吉川彰浩さんに協力していただいています。

今年8月のツアーは「大学生福島第一原発視察・福島エクスカーションツアー」と称し、原発内の視察と社会学者の開沼博さんの案内による「福島エクスカーション」をドッキングさせ、2日間かけて行いました。

1日目に行った「福島エクスカーション」は、津波被災の跡がまだ残っている広野町から、原発事故によって避難指示区域に指定されていた楢葉町や富岡町、そして現在も帰還困難区域に指定されている双葉町や浪江町を回りました。この企画は開沼さんが2013年10月より継続的に実施されているもので、「1日で福島の歴史や最新の状況を身につける」ことを目的としています。

そして、2日目は実際に福島第一原発構内を視察しました。東京電力(以下、東電)の方の専門的な案内のもと、廃炉作業の現実を間近で見るというものです。事故を起こした1-3号機をはじめ、構内全体を見ることができます。

地域と廃炉の状況を総合的に理解すると同時に、得た知見と発想したアイデアを共有して復興を前進させることを目指しています。

許せなかったのは、福島にたいする差別的な言動

原:

僕は、このツアー参加以前にも福島第一原発の視察が行われていることは知っていました。しかし、東電や行政関係者、もしくはそれと繋がりのある人、といった"一部の人"しか福島第一原発に入れないと思っていた。しかし、森さんは”一般”の大学生を福島第一原発に連れていっている。

そういう活動をしている大学生は多くないはずです。ツアーを実施するキッカケをなんだったのですか?

森:

僕は大学で安全保障を専攻しています。安全保障については高校生の頃から勉強していたのですが、とりわけエネルギー安全保障に興味がありました。最初、原発にはエネルギー安全保障の面から興味を持っていたんです。そして、僕が高校1年生のときに東日本大震災と福島第一原発事故が起きました。

事故に対する社会の反応は様々でしたが、一つ許せなかったのは、福島の外にいる人たちによる福島にたいする差別的な言動です。ネットジャーゴンで言う「放射脳」といった人々ですね。彼らは自分たちの住む世界と、福島第一原発ないし東電・国の間に非常に大きな断絶があると思い込んでいるんです。向こう側(東電・国)の人たちは情報を隠蔽するし、国民に嘘をつく=悪いやつら。それに対して被害者と抵抗する人々がいる、という枠組みです。彼らはほんとに相手のことを考えないし、その中で無意識のうちに福島県やその避難者も含めて「向こう側」=悪いやつら、としてしまう。そうして風評被害を発生させ、福島に不可逆的なダメージを与えていました。

2013年の夏に宮城県の復興支援のボランティアに参加したときにも、参加者に福島県民のことを「被害者」という言い方をする人がいました。福島の住民は、東電によって里を破壊され奪われた人々で、絶対に東電に反感を持っているだろうと決めつけているんです。しかし実情はもっと複雑で、東電と地域社会は不可分な関係です。双葉郡の労働者人口の3割は東電関係者ですし、東電をただ叩くことは明らかに現地へのストレスになります。

向こう側/こちら側という二項対立を崩したい

8月に行われた福島第一原発視察。構内を周るバス内にて(吉川さん提供)

8月に行われた福島第一原発視察。構内を周るバス内にて(吉川さん提供)

原:

福島第一原発視察ツアーの狙いは、その二項対立を崩していくことなんですね。

森:

こんな状況だと、福島と原発について話そうとすると「イズム(主義)」の対立になってしまう。なにより、冷静に安全保障の問題を考えることもできません。

まず自分ができることは、現地に行って話を聞くことだと考えました。現地の人がなにを考えているのかを僕ら東京の人間が知り、会話の中で相互に理解しあっていく。それを継続していけば、向こう側/こちら側という対立的な思考も無くなっていくのではないか、というのが大まかなアイデアです。その延長線上にこの福島第一原発視察ツアーもあります。

元東電社員・AFW代表吉川さんとの出会い

原:

ツアーにおける吉川さんとの関わりも重要だと思います。吉川さんとのはどのように知り合ったのですか。

森:

僕はAO入試でSFCに入学したため、高校3年の春に時間ができました。ちょうど福島に関わりたいと思っていた頃だったのですが、そこで、当時ハフィントンポストにレポートを投稿していた吉川さんを見つけたんです。彼のレポートが非常に緻密で、しかも元東電社員だという。すぐにFacebookで連絡を取りました。そして彼に現地を案内してもらって「僕らになにかできることはないか」と一緒に考えて始めたのが、広野町の中学生を対象に学習塾を開くという取り組みです。それが2014年の2月のこと。これは今でも継続して、毎月第4週の土日に開催しています。

吉川さんとのつながりはラフな感じで、学習塾に限らずいろいろやっていきましょうと話しています。その中のひとつが福島第一原発視察ツアーです。吉川さんが民間人向けの福島第一原発の視察を行っているので、僕はそこに大学生を加えただけで、「大学生の視察ツアー」を簡単に実現できました。

原:

東電側に、大学生が視察することへの抵抗はなかったのでしょうか? また、他に大学生ツアーを実施している人はいるのでしょうか。

森:

僕が最初に福島第一原発を視察したのは、吉川さん主催の視察においてです。それが2015年の2月です。僕が大学生ツアーを企画する前ですね。その中で、大学生は僕と友人の2人だけでした。福島第一原発を大学の学部生が視察するのはこのときが初めてだったんじゃないでしょうか。

東電側に大学生が視察することへの抵抗があったとは聞いていません。それに、一度前例ができればそれ以降は比較的スムーズにいくものです。僕の高校の後輩で現在早稲田大学に通っている猪俣翔平という人は、僕が第1回ツアーを主催したときに一緒に入った人なのですが、彼も、その後早稲田の学生を中心に同じようなことを始めたみたいですね。

原:

視察にあたって、直接東電とやり取りをしているのは吉川さんですよね。吉川さん以外で、民間と東電をつなぐ活動をしているプレイヤーはいないんでしょうか。

森:

行政の人間や企業・研究者を視察に連れていく役割をしている人はいますが、吉川さんのように民間人を案内している人は本当に少ないと思います。東電の視察センター側としては多くの人を入れたいんだけど、信用がおける人じゃないといけない。その信用があるから吉川さんの活動は可能なんです。

廃炉と復興を見届けられるのはいまの若い世代

1日目のエクスカーションツアーの最後には勉強会も行われた

1日目のエクスカーションツアーの最後には勉強会も行われた

原:

1回目と2回目のツアーを終えて、なにか手応えはありましたか。

森:

ツアーに参加したことにより、少しでも関心と知識を持ってくれる人が増えているだけでも、ツアーを開催している意味があると思います。

例えば、東電の人は士気が高く、誇りと使命感をもって仕事をしています。メディアは報道しないけれど、現地に行って話をすれば誰だってわかることです。彼らはプライドを持ち、日本のためだと思って作業しています。

原:

ありきたりではあるが、実際に現地に行って話をすることでわかることがあると。

森:

自分も現地に関わる前は本当に"廃炉"という過酷な作業を東電がやるのかと疑問に思っていました。しかし彼らと会い、本当に使命感を持って作業していることが分かりました。現場で働いている人の多くが福島県民です。今では東電が廃炉をやり切ることに疑問をもっていません。

原:

"大学生が入る"ということにはどのような意義があるのでしょうか。

森:

結局、「現地にたいしてなにができるか」という視点が重要だと思います。現状、福島第一原発には年間約8000人が視察に入っています。しかし、やはり定員が決まっているわけです。

限られた枠の中で誰が行くべきか考えたとき、理解を深めた上で今後長い期間福島にコミットできる人、つまり若者が行ったほうがいいでしょう。廃炉が完了するまであと約30年はかかると言われています。そして廃炉後に本当の意味での復興が始まる。そう考えると、復興まで半世紀以上かかります。半世紀以上かかる問題にコミットできる人は、寿命から考えて若い人ですよね(笑)。

「ミニいわき」つくっても意味なし 長期的な視点が必要

福島第一原発・2号機(吉川さん提供)

福島第一原発・2号機(吉川さん提供)

森:

最近僕は、目先のことはどうでもよくなっていて…。本当にくだらないんですよ、今の"復興"が。今年で震災から5年が経つわけですが、今までは「集中復興期間」(2011-15年度)、いわゆる"復興バブル"状態ですよね。福島県の予算は3.11以前と比べて約2倍になりました。そしてこれからは「復興・創生期間」(2016-20年度)となり、国から予算が出ます。これまでの5年間に比べて予算規模は減額すると思います。

双葉郡の自治体が増えた予算でなにをしているかというと、「ミニいわき」をバンバン作ろうとしています。福島県の一大都市であるいわきにはショッピングモールや学校といったインフラが整っているのですが、そうしたインフラを各都市に設置しようとしています。自治体がそのようにして作ろうとしている地域を、僕は「ミニいわき」と呼んでいます。

双葉郡やその周辺の町がそういうものをほしがっていて、今は復興予算があるから作れてしまうわけです。でも、そんなことをしても、その町にある一定以上の人口がなければインフラはただのお荷物になってしまう。避難した元住民が戻ってくるという話もありますが、震災がなくても少子高齢化は進み、人口減は避けられなかったわけでしょう。その中で、土建屋にも気を使って進められている今の復興ははっきりいってイビツです。普通じゃないものを作ろうとしている。

原:

目先の政治や復興にとらわれない若い世代が、長期的にコミットすることが大事だということですね。

森:

一番おもしろいのは半世紀後だと思います。原発のあった場所が更地になってなにも無くなったとき。

大量の放射能を撒き散らす事故が起きたわけですが、福島は除染が進んでいます。原子力事故を起こして、人間が避難して一度は入れなくなった地域が半世紀後には復活する。一体そこでなにをするかを見届けられるのは、結局は若い世代です。

=後編に続く=

前編では、なぜ森さんが福島にコミットし、福島第一原発視察ツアーを行っているのかについて聞いた。後編では、福島外の人間が福島に関わるということはどういうことか、そして今後の復興のあり方はどうあるべきか、森さんと考える。

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