SFC CLIP編集部では、2005年度春学期に情報技術認定試験分析・改善プロジェクトを立ち上げた大岩研究室の、大岩元環境情報学部教授と杉浦学さん(政・メ博士課程)に情報技術科目への見方などを聞いた。今週は前編として情報技術基礎に関する話題をお送りする。


大:大岩元環境情報学部教授
杉:杉浦学さん(政・メ博士課程)
■SA不足問題について
なぜ、情報技術科目のSAの担い手が不足しているのでしょうか?
大:昔に比べると、情報技術の普及度が違うんです。SFCが始まった時は、そもそも学生達はマウスすら見たことない。そのくらいの時期にSFCは始まりましたから、当時と今では全く状況が違うんです。
 昔なら、コンピュータが使いこなせる事はいろいろな意味で有利だろうと思い、興味を持って情報系をやる学生さんがたくさん居たのですが、今は「コンピュータが使えたからって、別にどうってことない」という評価になってしまっている。それがたぶん大きな理由です。
つまり、登録システムの不具合や、希望する講義を担当できないことは本当の理由ではないのですね。(注1)
大:講師がより良い授業のためにSAを選ぶというのは、やらなきゃいけないことなので、結果として希望した授業のSAになれない学生が出てしまうでしょう。ただし全体をみると、今はむしろSAになる人が足りない授業がたくさん出てきて、困っているという状況です。
SAを希望する人自体が少ないということですね。
大:そういうことです。最初の頃はもっと希望者がたくさんいて、その中から選ばれるっていう感じでした。選ばれるというくらいだから、やはり自分の任務にプライドを持てるっていう状況だったんですね。
研究プロジェクトの履修可能な学年が下がった事も要因でしょうか?
大:それはあるでしょう。研究プロジェクトは3年生からだった。2年生が研究室に行ってしまうと、その時間はSAが出来ないということになるし、時間がもったいないと思う人も増えると思います。
■クラス間の差
情報技術基礎の授業内容に差が出ることについてどうお考えなのですか?
大:そもそも、専任の先生だけでは足りないので最初から非常勤の先生にもお願いしていましたが、情報教育というものは他の教科と違って専門家が足りない。数学教育とか外国語教育は長い歴史があるから、それのプロ、つまりそれが自分の職業だと考える人がたくさん居るわけだけですが、情報教育に関してそういったプロの人たちが出だしたのがようやく2.3年前の話だった。
 SFCでは、工学部の卒業生なんかを中心に、企業の技術者に来てもらって教えるということをずっと続けてきているんですが、その中にはいろんな事情でやむなく教えざるを得ないという人もでてくる。逆に、面白くてしょうがないと言って、熱心に教える人もかなり居るんです。その格差が非常に大きい。熱心な人だけで授業がまかなうわけにはいかないですからね。
 同じように専任の教員も、学生に評判のいい授業をするかというと必ずしもそうでないかもしれない。多くの教員は、別に情報の教育が自分の専門だとは思ってないわけだし、実際専門ではないわけだから。
 今、情報技術基礎でやっている内容は、実は中等教育の内容。なるべくそうならないように工夫するんだけど、でも中等教育でやるべきことをやってない人も授業を受けるわけだから、そこで問題が生じてしまう。SFC高のように、中等教育でそれなりのことをやって大学に入ることが世界の常識になってるんですが、日本だけはそうじゃないわけです。
杉:たとえば熱心な方はオリジナルな教材を作っていたりする。そういった面白い教材があるけれど、他の先生とそれを共有できてないそうです。だから同じ情報技術基礎をやっていても、「この週は共通の教材ではなく自分の手で作った教材を使いたいけど、他の先生はどうやっているんだろう?」といって、他の先生の教材を参考にすることができるような仕組みがないんです。
 そういう状況なので、面白い先生が居たとしても、他の先生がそれに刺激を受けていけるような体制になっていないのは残念だと思いますね。
■スタッフMLや、情報技術科目の運営に関して
情報技術科目スタッフのメーリングリストで、大岩先生が情報技術科目の教材等へのご意見を投稿されても、運営に反映されていないとお聞きしたのですが。
大:障害があれば治さなきゃいけないけど、提案が反映されないということは、そこまで悪いことではないんです。僕が言ったことが本当に正しいかといった問題もありますし。だから、それで運営側が悪いとか、そういうことになるわけでは全然無いです。
他にも同様の事例(注2)があるようなのですが、意見が出されても流されてしまう状況に関してどうお考えですか?
杉:いろんな問題があって、まず意見を言ってくださる先生があまりいらっしゃらない。積極的な先生だけが意見を流して下さる。実際に問題に反映させるのにはまた結構コストがかかるので、可能であってもなかなか積極的な意見交換が出来ていない。だから、意見が無視されているというわけではないですね。
大:誰がそれに対して答えるべきかというのは難しいんです。と言うのも、その該当した試験問題を作った人というのがもう誰だかわからないんですよね。
杉:やはりメーリングリストで議論しているだけだと、物事がなかなか進まないんですよね。
大:認定試験の問題で、(答えの)正誤は判定できるかもしれないけど、それが学生の能力を判断するのに適切な問題であるかどうかっていうと、短期間にパッとつくっちゃった試験問題だから相当問題点があるわけです。妥当性をシステマティックに判断しようと進めている途中段階なんです。だから、指摘を無視しているわけではなく、それを認識しているけども一概に回答できる状況ではないんです。
大:もうひとつ、2007年度からカリキュラム全体を改定するため、情報技術科目に関係している担当教員は、その中で情報技術科目をどうするかという問題を決めなきゃいけない。教員は皆そちらで大変で、個々の指摘への対応は後回しにせざるを得ないという状況です。
大岩先生が情報技術科目のリーダーシップをとる可能性は特にないのですか?
大:そんなことはないんですが、情報の教育の専門家でも、情報技術科目をマネージしようと思うと、システム的な設定などをしなくてはならないから、やるとなると大学院生などに頼まないと出来ないわけです。
 それに対して、現在の情報技術科目を運営している服部先生は自分で運用されている。やはり僕は役割が違うんです。僕は、服部先生のやってることを支援する意見も言うけど、今の情報技術基礎の授業は服部さんが組み立てているから、彼の判断で決める事になってる。
 しばらく前に、情報処理という今の情報技術基礎にあたる授業を僕の研究室でやってたこともありますが、それでうまくいかないところもありました。僕や服部先生はみんな理学部ないし工学部で教育を受けてきて、そういう価値観で物事をやるわけです。だから、僕が最初ここに来たときには、理工学部流の教育のやり方でうまくいくと思っていたのですが、SFCでは通用しないということがわかりました。僕はそこをどうするか考え出したけども、僕以外の先生はあまりそういう問題意識がなかったのかもしれません。
注1)登録システムの不具合:WEB上に設置されているSA登録システムが不調で、春学期はメールでSA登録の申し込みをしなくてはならなくなっていたこと。また、先生からの推薦を受けた学生がWEB上で登録した学生よりも優先されてしまい、WEBで登録した意味がなくなってしまうといった手続き上の問題。
注2)同様の事例:情報技術科目スタッフのメーリングリストで、認定試験の内容について指摘した先生がいらっしゃったにも関わらず、それに対して返信が無かったこと。
次回は、情報技術認定試験分析・改善プロジェクトについて聞いた話を中心に掲載する。