来週に迫るORF2014では、従来の展示・セッションに新たに「ワークショップ」という出展形式が導入された。SFCでは授業や研究会で盛んなワークショップだが、ORFにワークショップを導入することはどのような意義があり、何をもたらすのか。ORF実行委員でワークショップ担当の井庭崇総合政策学部准教授にインタビューした。

結果「先端」だけではなく、プロセス「創造」が見えるORF

WS担当 井庭准教授

研究のプロセスを見せたい―「見る」だけのORFに感じていた疑問

— どのような経緯でワークショップを導入することに至ったのでしょうか?

 以前から、私は「見る」だけのORFに対して問題意識を持っていました。07学則でも掲げていたように、SFCは「創造」「先端」をキーワードにしています。先端、いわばフロンティアな部分は従来のORFで全部出すことができていたと思います。しかし、「創造」の部分が見えてこない。研究の成果物を展示することに留まるために、「どうやって作り上げたか」という研究のプロセスが見えないのです。  ですから、「創造」という部分をどうすればオープンにできるのか、ずっと気になっていました。昨年や一昨年は、その問いにいかに答えるかを私の研究会(井庭崇研究会・以下、井庭研)で考えていました。結果として、ワークショップがそれを実現してくれるのではないかという答えにたどり着きました。そして、今年はORF実行委員を務めることになったので、出展形式にワークショップを取り入れて、つくるという体験の共有を実現させようとしたわけです。  

「つくる×展示」が“未来の研究室”を実現―ワークショップの語源「工房」を意識

— 昨年のORFで、井庭研は6つのブースを散在させてスタンプラリー形式にするという斬新な出展を試みていました。そのほか、今までも展示やセッションの一部に参加型のものがありましたが、それらと今回導入するワークショップの違いは何でしょうか?

 私たちORF実行委が目指しているワークショップは、その語源となった意味に近いものです。もともとワークショップとは、靴や鞄などを作る工房と製品を展示して売るお店が一体化した場のことを示していました。ものを売る場自体が工房なんですね。  ワークショップのブースもそれに似たところがあって、成果をただ展示するだけではなく、そこで「知をつくる」ことも見せます。そこに行けば、見る体験だけではなく、つくる体験もできる。こんな場を「未来の研究室」と私たちは呼んでいます。  こうしたインタラクティブで体験型な試みであることがわかりやすいように、サブタイトルとして「つくる×展示」を添えているのです。

WS担当 井庭准教授

—確かに「つくる×展示」と言われると自分も参加できるということが理解できます。例えば、井庭研ではどのようなワークショップを実施するのですか?

 井庭研は、パターンランゲージを作り上げるワークショップを行います。本来は半年間かけて行うものを2日間に凝縮します。好きなタイミングで参加して好きなタイミングで抜けるというオープンな形で、参加した人には普段の井庭研でやっている、学びのパターンランゲージを使った振り返りをしてもらいます。1時間や2時間の体験を数セット行うのではなく、メインイベントの2日間、井庭研を六本木の東京ミッドタウンに出現させるというコンセプトです。

研究会を東京ミッドタウンでやる―つくるプロセスから見える研究会の“らしさ”

— まさに“出張井庭研”ですね!

 ここまでやるのは井庭研だけかもしれませんが、私はこれぐらい思い切ってやってもよいと思います。SFCで作ったものを六本木の東京ミッドタウンに輸送して、その成果を見せたり話したりするのではなく、研究会自体が東京ミッドタウンで活動している。そして、つくるプロセスそのものに各研究会の“らしさ”が出てくるのです。つくるプロセスがブラックボックスに入っているのではなく、開かれているのが、今年の新しいORFのスタイルですね。  来場者には、「見る」だけでなく「つくる」プロセスに参加して経験してほしい。いきなり参加するのが難しいと感じるなら、つくっている人・プロセスを横から見ているだけでもいいんです。成果を見ているだけとは、体験の質が断然違いますから。  

井庭崇のPROTO-UNIVERSITY―大学の本質は「ともにつくる」こと

—ORF2014のテーマは「PROTO-UNIVERSITY」ですが、井庭准教授が思い描く大学の姿とワークショップは深い関わりがあるのでしょうか?

 私は、大学の本質は「ともにつくる」ことだと考えています。今や大学の授業は、SFCならグローバルキャンパス(SFC-GC)で公開されていて、iTunes Uを使えばインターネット上で講義を受けることができます。しかし、グループワークなどのつくる体験は、実際にその場にいないとできません。グローバルキャンパスでは、教室にいる履修者同士がその場で演習する部分は、カットになってしまうのです。  繰り返しますが、「ともにつくる」ことが大学の本質だと私は思います。そして、未来の研究室では「つくる」ことがより先鋭化して、残っていくと考えています。だから、テーマ「PROTO-UNIVERSITY」と照らし合わせても、ワークショップはORFの重要な要素だと私は感じています。    ORF直前実行委員インタビューでは、井庭准教授のほか、ORFを取り仕切る実行委員長の脇田玲教授、アルゴリズムを用いた展示・空間デザインについて松川昌平環境情報学部専任講師に話を聞いた。下記リンクより、ぜひご覧ください。