来週に迫るORF2014は「PROTO-UNIVERSITY」をテーマに掲げ、ワークショップやサテライトイベントなどの新たな試みが多数行われる。そんな中、メインイベント(21-22日・東京ミッドタウン)の会場にもORF事務局の試行錯誤があることをご存知だろうか。
 今年は、とあるアルゴリズムを用いて展示ブースの配分・配置が設計された。一体、そのアルゴリズムとは何なのか。ORF実行委員で展示・空間デザイン(会場設計)を担当する松川昌平環境情報学部専任講師がその裏側を語る。

設計アルゴリズムは新しいORFへの挑戦から始まった

例年は、東京ミッドタウンのホールAとBを碁盤の目のように直交グリッドで分けて、各ブースに何コマ割り当てるかという方法で配置・配分をしていました。それで昨年度までは、出展者登録の際にWebシステムを使って各団体に何コマ必要かを登録してもらい、その申請情報をもとにORF事務局側でコマ数の調整をしていました。

ORF2013昨年のORFのコマ割り(http://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ORF/2013/jp/mapより)

“学内政治”で毎年困難を極めるスペース配分とブース配置

たいていみなさん多めにコマ数を希望するので、必要コマ数が想定されているコマ数の倍くらいになってしまうんです。それで、一律して半分くらいにコマ数を減らした上で、事務局がいろいろな配慮をしながら配分や配置を調整します。
 しかし、先生方からの要望がたくさん返ってくるんですよ。「希望コマ数これだけ出したのに、なんでこんなに小さい面積なんだ」とか「できればこの先生とは近くにしてほしい」とか。毎年その調整が一番大変で、いわゆる“学内政治”的な配慮をしながら、事務局が手作業で調整を行っていました。
 毎年、それをなんとかできないかという議論がORF実行委員会のなかで交わされますが、答えが出ることなく、結局いつも事務局が大変な役回りを担っていたというわけです。

新しいORFなら会場設計の手法も新しく

今年、脇田先生(脇田玲環境情報学部教授)がORF実行委員長になられてまず最初にやったことは、ORFをこれまでとは違う形で新しくしていこう、挑戦的な試みをしていこう、という志を実行委員全員で共有することでした。
 私のバックグラウンドは建築デザインですから、「ぜひ今年の会場設計は松川さんの研究に関連があって、かつ挑戦的な会場設計をしてくれないか」というお話を脇田先生から頂きました。そこで、これまで事務局が行っていた面積配分と配置のアルゴリズムを松川研で開発することにしたんです。

ランダムなグリッド配置を木造の軸組で実現

まず最初にそのアルゴリズムによって生成された会場構成の結果からお見せします。今年もORFメインイベント(21・22日)は、東京ミッドタウン地下1階のホールを使用します。昨年まではホール内をユニバーサルなグリッドで区切ってコマ割りと通路を作っていましたが、今年はグリッドの切り方も大きさも一見ランダムに見えるモンドリアングリッドのような配置にしました。さらに、ブースや廊下をSFCの森アトリエのような木造の軸組を使ってつくることにしました。

今年のORFのコマ割り(松川研究室提供)今年のORFのコマ割り(松川研究室提供)

「SFCの縮図」はたった2つのデータから作られた

会場設計をするにあたって重要なのが面積配分と配置です。

まず、面積配分の話をしましょう。今年も各団体に希望コマ数を申請してもらいました。それに加えて、今年は「SFCの縮図」みたいなものを会場に再現しようという大枠のコンセプトがあります。そのために、まずはSFCの縮図を反映するような2つのデータを手に入れました。

教員の学内占有面積と研究資金から「SFCの縮図」を描く

ひとつ目のデータは、先生方がSFCの中でどのくらいの面積を占有しているかという情報です。例えば、森アトリエなら僕と中島直人先生(環境情報学部准教授)と池田靖史先生(政策・メディア研究科教授)の3人がどのくらい部屋の面積を占めているか、ということです。このデータを管財(SFC総務担当管財会計グループ)の方から手に入れました。
 ふたつ目のデータは、先生方がどれだけ研究資金を獲得しているのかという情報です。ただ研究資金は機密情報も含みますので生データではなく、獲得資金額に応じて3つのグループに分類されたデータを湘南藤沢事務室学術研究支援担当から頂きました。
 この学内占有面積と研究資金というふたつのデータを使って、「この先生がこのくらいの面積を占めていれば、SFCのありのままの姿だろう」という、まさに「SFCの縮図」を可視化しました。ただそのデータを鵜呑みにして自動的に面積配分するのではなく、最終的には、希望コマ数と「SFCの縮図」を照らし合わせた上で、実行委員会と事務局で話し合いながら最終結果を出しました。

松川昌平専任講師SFCの縮図を描いた松川専任講師

データから編み出されるリアルなSFC感覚

このとき、おもしろいなと思ったことがあります。事務局の方の頭の中になんとなくあった「毎年この先生はたくさんの希望コマ数を申請していただくけど、こんなに出してもいいのかな」という悩みに対して、SFCの縮図によって可視化された妥当性が、かなりの確率で一致しているというのです。だから、このSFCの縮図データは、僕たちが普段感じているSFC感覚とある程度はマッチしていると言ってよいと思います。
 どういうデータを使えば、僕たちが普段、直感的に考えているようなSFCの縮図を表現できるのかということは、実はとても難しいのです。直感は数値化できない定性的なものですよね。だけど、その定量的なデータからでも何かしら定性的な意味がにじみ出ることがある。そのような定量的なデータをいかにうまく引っ張ってくるか。それが今回のミソでしたね。
 

アスペクト(14学則)を用いたアルゴリズムから見えたSFCのクラスタ

次に配置の話をしましょう。これも迷いましたが、14学則で新たに導入された40種類のアスペクトを使いました。各団体の代表教員の方が担当している授業がどのアスペクトを持っているのかをデータベース化することから始めました。そして、アスペクトが近ければ近いほど引力が働いて配置が近づき、アスペクトが遠ければ遠いほど斥力が働いて配置が離れるというアルゴリズムを組みました。

各団体のアスペクトによる相関図。黄線がアスペクトによる相関、赤線が隣接希望を表している。(http://000studio.com/detail/2273/ より)

その結果がこれ(上画像)です。全61団体がどのようにクラスタリングされているのかがひと目でわかります。さらに、出展登録時の「この先生とだけはどうしても隣り合ってほしい」という要望を反映します。すると、学問分野としてのクラスタだけではなく、学内派閥のような関係性までもが可視化されます。そこには、ハブになってる先生や一匹狼的な先生や特定の関係性に閉じている先生など、さまざまな関係性が見て取れます。これも普段の実感と非常に近いのでないかという結果が出ました。

クラスタリングをしたあと、ORFの実際の会場にぐっとパッキングします。この段階ではボロノイ分割という蜂の巣のような多角形形状になっていますが、その後直交座標へと幾何学変換しています。幾何学的な形状は変化していますが、位相的な関係性は保持されていることがわかるかと思います。最後に、消防法上8つの入り口と6つの非常ドアでお互いに行き来できるように廊下をつなげるアルゴリズムを組み込み、まるで実際の街並みのような会場設計が実現しました。

完成したブース配置( http://000studio.com/detail/2273/より)

「自然(じねん)」と「人為」の不断の綱引きによって生まれた会場設計

実は、今回使ったアルゴリズムは、以前に僕が設計した美容室(砺波の美容院)をつくるときに開発したものを応用したんです。美容室って壁面に鏡があってカットスペースが横並びになっているものが多いじゃないですか。だけど、僕は一つひとつのカットスペースなどを細かい部屋として分解して、その細かい部屋が、隣り合ってほしければ近づき、もし隣り合ってほしくなければ離れるという風に、ごくごく単純なルールをそれぞれの部屋に“教え”ました。すると、その部屋たちは、僕自身が手を下すことなく、知能とも呼べないような単純な知能を持っている部屋たちそのものが、自分でどこに行くべきかを自律的に判断しながら、押し合い圧し合いして自然な場所に落ち着くわけです。
 ここでいう「自然」は、いわゆる木とか石とか、人間の手が加わっていない自然(しぜん)というよりは、「自ずから然るべき状態」という意味での「自然(じねん)」に近い。
 これは、盆栽で例えることができます。植物は植物で自然の理にしたがって「自ずから然るべき状態」になるようにボトムアップに自己組織化していきます。しかしもう一方では、作り手がその審美眼によって枝をを剪定したりしながらトップダウンにコントロールしようとする。つまり「自然」と「人為」の不断の綱引き状態の末に、盆栽という芸術が生まれると思うんです。

松川昌平専任講師

今回のORF会場設計も同じことが言えます。実際、僕は1本も自分で線を引いていません。ですが、それぞれのブースに与えた簡単な知能があって、彼ら自身が自分がどこに行くべきかを判断して動いてくれるのでボトムアップな自己組織化が生まれます。一方で、「あなたはここじゃなくて、やっぱりこっちに行ってほしい」というような事務局や実行委員のトップダウンな政治的判断があります。その両者の綱引きの間に、今回の会場設計が生まれました。やはり「自然」と「人為」の間という、普段から僕が研究していることが、今回のORF会場設計に生かすことができたのです。
 

SFC等身大な発表を―ORFではない363日間も一生懸命な研究をしよう

ORFはメインイベントの2日間だけSFCが六本木の東京ミッドタウンに引越しをして、普段の研究を社会に対してアウトリーチする重要な機会ですよね。だけど、その2日間のためだけにドカーンと花火を打ち上げて儚く散ってしまうなら、もったいないと思っています。むしろ365日の残りの363日の方がよっぽど重要です。個人的には、そう遠くない将来、ORFはSFCで開催すべきだと思っています。理想論かもしれませんが、わざわざ六本木にいかなくても、普段の等身大のSFCに来てもらえるような研究をしていきたいと思っています。

ORF直前実行委員インタビューでは、松川専任講師だけではなく、ORFを取り仕切る実行委員長の脇田玲教授、新たに導入されるワークショップについて井庭崇総合政策学部准教授に話を聞いた。下記リンクより、ぜひご覧ください。