ORF初日の18日(金)、慶應義塾大学ケースメソッド・ラボによるセッション「実践的問題解決力向上とケースメソッド教授法」が開かれた。

■司会

  • 飯盛義徳 総合政策学部教授

■パネリスト

  • 高田朝子 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
  • 古城隆雄 自治医科大学地域医療学センター(地域医療学部門)助教
  • 伴英美子 政策・メディア研究科特任講師

学習者参加型授業「ケースメソッド」とは?

セッションは、飯盛教授からの「ケースメソッドとは何か」というイントロダクションから始まった。

意思決定能力を養う

ケースメソッドは、個々の具体的事例(ケース)を題材に、ディスカッションを通して学ぶ授業スタイルを指す。例えばビジネススクールならば、フォードやトヨタなど具体的な企業のこれまでの事例を取り上げ、討論することになる。

ハーバード大学大学院から始まったこのメソッドは、現在では日本でも専門職大学院を中心に取り入れられている。学習者の能動的な参加を伴う「アクティブラーニング」であるケースメソッドは、問題発見・解決、そして意思決定能力の涵養に役立てられている。

ディスカッションを通じた学びの共同体

ケースメソッド教授法では、学習者は授業前に平均20ページほどの「ケース教材」を読み込む。授業時間はディスカッションに充てられ、討論を通じて、発言する勇気や、異なる意見を持つ他者への礼節や寛容さなどが身につくことも期待される。参加者の積極的な交流から学びの共同体が育まれるのだ。

一方、講師は「ティーチングノート」と呼ばれる授業のシナリオを準備し、授業運営に備える。授業内で想定される意見や、ディスカッションの展開に合わせてどのように授業をファシリテートしていくかを構想しておくものだ。しかし「ケースメソッドでは、ティーチングノートで想定されていなかった意見が出て、講師も気づかなかった視点を得られることもある」と飯盛教授は話す。

学習者のみならず講師にとっても事前準備などの負担は大きいが、従来型教授法とは異なる気づきを得ることができるという、ケースメソッドの特長が紹介された。

現実世界の問題に取り組むリーダーを―日本のビジネススクールにおける活用例

組織行動論を専門とする高田教授は、「ビジネススクールにおけるケースメソッド」について語った。

世の中の問題の結論はひとつではない

理論ではなく実際の事例に基づいて議論するケースメソッドについて、「ビジネススクールに親和性がある」と高田教授。アメリカ大統領選挙において、大方の予想を覆してトランプ候補が勝利した例を取り上げ、ビジネスなど現実世界における意思決定では、必ずしも教科書的な答えが有効であるとは限らないことを示した。

そのうえで、このような「結論が一つではない、唯一の正解はない現実の問題について、議論を通じて自ら学ぶこと」をケースメソッドの特徴として挙げた。

ケースを小さな修羅場としてリーダーシップを

高田教授は、「日本ではMBAを取得するだけで年収が1.5倍になることはない。重要なのは、ビジネススクールで養う意思決定能力。社長、部長、現場の立場だったらどう判断するのかを考えてほしい」と述べ、ビジネススクールが意思決定の訓練の場であることを強調する。

またマネージャーにとって重要なリーダーシップについては、「知識獲得型の勉強では優秀な人も、修羅場を経験していないと非常に弱いんです。授業で取り上げるケースに触れることは "プチ修羅場" を積み重ねることになり、実践的なリーダーシップへと高める」と、リーダーシップの向上にケースメソッド教授法が有効であることを力説した。

ケースメソッドを学部教育へ―医療福祉政策の科目における活用例

引き続いて、医学部の医療福祉政策の科目におけるケースメソッドの活用事例が紹介された。

マイクを持つ古城助教(中央)

マイクを持つ古城助教(中央)

自治医科大学で教鞭をとる古城助教は、発表テーマ「医療福祉政策の(ケース)教材の活用―学部教育での試行錯誤例―」、 "ケース" という言葉を括弧書きにして示した。その理由について「従来、大学院を中心で行われてきたものを学部教育に導入している。そのため、ケースメソッド教授法もケース教材も、みなさんがイメージするとはかなり異なってくる」と述べ、ケースメソッドを医学部での教育に導入する際、どのような工夫をしているかについて話を展開した。

医学医療系の譲れない事情

自律的学習のひとつであるケースメソッド教授法では、学習者は教師のモデルを学ぶというよりも、学習者自らがモデルを形成していく。しかし、医療という生命や安全に関わる領域であるため、ケースメソッドを取り入れつつも「教師のモデルを明示的に教える部分がかなり含まれる」と、典型的なケースメソッド教授法とのあり方の違いを説明した。

実務経験のない学部生にどう教えるか

専門職大学院などでは実務を経験したのちに入学する学習者が多い。そのため、関連分野の経験があることを前提に、ケースリーディングは事前学習とし、授業時間の大部分をディスカッションに充てる。また、授業のすべての回がケースメソッドとなる場合も多い。

しかし学部課程の学習者には実務経験がないこともあり、そのような授業運営は学部向けとしては適さない。そのため古城助教は、ひとつの授業で通常の講義とケースメソッドの両方を行うとともに、ケースリーディングはディスカッションと合わせて授業中に行うようにし、学習者の負担軽減を図る。

ケースメソッドの回は、通常講義で身につけた知識の定着を確認する場として位置づけられる。また、ケース教材が、実務経験のない学部生にとって職業の疑似体験の役割を果たすことも期待されている。

ディスカッションからネットワーキングへ―介護福祉系管理者研修における導入例

伴特任講師は、「介護福祉事業者のメンタルヘルス対策におけるケースメソッドの活用」というタイトルで、介護福祉業界のケース事例を作成し管理者研修用に活用した取り組みを紹介した。

介護福祉業界はメンタル面での問題を訴える従業者が多く、メンタルヘルスケアの需要が高いのにもかかわらず、対応が遅れているという。また、従業者からのメンタルヘルスに関する相談などは、所長などのトップ層が少人数で対応している場合が多く、心理職などの専門家との連携が不足していることを指摘した。

伴特任講師がケースメソッドを取り入れたのは、大阪府社会福祉協議会主催の管理者向けの研修である。ケースをもとにしたディスカッションに加え、「グループごとのディスカッションを模造紙に貼り出し、グループを行き来する」いわゆるワールドカフェ方式を採用する。参加者からは、マネジメント層から幅広い意見を聞くことができたほか、参加者どうしの交流が持てる点など、好意的な意見が寄せられたという。一方で、短時間の研修で議論を展開してもらうことの難しさなど、今後の課題も明かされた。

ケースメソッド導入のためのアドバイス

各分野での導入事例が紹介されたのち、飯盛教授は、教授法として取り入れる際のアドバイスをパネリストに尋ねた。

メリットがありつつも、いまだ普及の途上にあるケースメソッド。高田教授は「答えが決まっている事柄に対しては、講義とテストの繰り返しのような、従来的な教授法が有効。ケースメソッドの授業は、即効性よりも自身の気づきを得るための授業だ」と、ケースメソッドを活用すべき場合について述べた。

また、ケースメソッドでは、従来型の教授法と異なり、学習者は授業内で発言することを求められる。パネリストからは、学習者がどうすれば発言をしやすくなるかについての意見が多く聞かれた。

古城助教は、発言すること自体を評価することで、学生が躊躇せず発言し、ディスカッションに参加できるよう促しているという。一方、伴特任講師は、参加者全員のディスカッションの前に、隣の人とのペアディスカッションの時間を設け、学習者が発言しやすいような流れを作っているという。また「講習会などの場でケースメソッドを取り入れる際は、アイスブレーキングの時間を設けるといった工夫が必要だ」と付け加え、講座の形態に合わせた工夫の必要性を示唆した。

また、ディスカッションの途中で発言が途切れてしまうこともある。これについては高田教授から、「学生が沈黙しているときは考えている時なので、その時間を恐れないでほしい」とのアドバイスが聞かれた。

ケースメソッドという学び方―SFCの両学部でも

今回のセッションは、国内の経営大学院に加え、大学学部課程、さらには大学外での研修における導入事例が紹介され、ケースメソッドの可能性を垣間見ることのできるものだった。教育現場において「アクティブラーニング」が普及しつつあるなかで、ケースメソッドの今後が注目される。

司会の飯盛教授担当の先端科目「まちづくり論」や、パネリストの古城助教による先端科目「地域医療システム」などを含め、SFCではケースメソッドを取り入れた授業が学部課程で複数開講されている。

ケースメソッドは、具体的事例をもとにした討論を通じて、問題発見・解決をはじめとした能力を高めるものである。そして、「問題の発見と解決」は、SFCが掲げるテーマでもある。ケースメソッドは、このキャンパスで学ぶ"未来からの留学生"たちにも大きな気づきをもたらしてくれるはずだ。問題発見・解決能力を高める "SFCらしい" 授業を受けたい人は、ぜひ履修を検討してみてはいかがだろうか。

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