今回の卒業生特集では、KLab(クラブ)株式会社の取締役を務める千葉功太郎さん(97年環卒)にインタビューを行った。KLab株式会社は、技術を基盤とした携帯電話向けサービス事業会社。SFC4期生である千葉さんに、SFCに入学した理由から、面白かった授業、自ら立ち上げたCD-ROM制作会社について、現在のお仕事など、多岐にわたってお話を伺った。

千葉功太郎さん(97年環卒)

入学1学期目にSFC生活で転機となる授業を履修する

大学を選ぶ際、なぜSFCにしたのですか?
 
 僕は高校の頃、理系の化学専攻で、大学は理学部に行きたいなと思っていたんです。ですが、コンピュータ言語と自然言語の2つの言語を扱うとか、環境となになにとか、そういったSFCらしい言葉の並ぶパンフレットを見て、SFCに興味を持ってしまったんですね。
 僕が当時やりたかったことは、理工系の人が持っている有用な技術を、一般の人たちが使えるようなものにするためのプロデューサー的な役割だったんです。理工系の人たちはマニアックでも新しくて有用な技術を持っているのですが、そういった技術は学会では発表されるけれども、実社会にはなかなか行き届かない。実社会でいろんな問題が起きているけれども、そういった技術が活用されているとは思えない。だから、理工系の人たちと一般の人たちの両方の気持ちが分かる人間が必要だろうなという考えを持っていました。両方の人たちの気持ちが分かって、両方の人たちときちんと話せて、とりまとめを行い、それを一般の人たちが使えるところまで落としたい、というようなことを考えていましたね。
 そういった考えが、SFCのコンセプトと近かったんです。理系でも文系でもない、大体そういう考え方自体ナンセンス、というSFCの考え方にとても共感しました。白衣を着るよりもSFCに行くほうが、自分に向いているのかなと思い、SFCのAO入試を受験しました。
受けて面白かったと思う授業はありますか?
 1年生の最初の1学期目で履修した、奥出先生担当の文化人類学という授業です。それが、全てのSFCの生活の中で一番の転機でしたね。どういう授業かというと、文化人類学とは名ばかりで、文化人類学を題材にしたマルチメディア教育みたいなものでした。授業名がどんどん変わっているので、今でも近い授業があると思います。
今だとデジタルシネマトグラフィーですね。
 内容的には、グループワーク形式で、グループごとにテーマを決めて、半年間テーマについて調べた結果を、最後の授業にプレゼンで発表するというものでした。プレゼンをするときは、モニターを何十台並べて、スピーカーも並べたりして、音と映像と踊りと、あらゆるメディアを使いましたね。自分たちの調べてきたことを1時間半にまとめてプレゼンをしなくてはいけなくて、とてもヘビーな授業でした。
 当然、大学に入ってきたばかりだから、スキルが何にもないじゃないですか。初めてビデオを借りてきて、ビデオ撮影をする。色々なところに取材に行って、編集して、まとめる。パワーポイントが無かったから、色々な資料をひとつひとつ作る。全て手作りで1時間半分のプレゼンをきちんと作るのは、けっこう大変なんですね。それを半年間徹夜しながらやると。その授業のおかげで、他の授業は1個も出れませんでした(笑)。
その授業がSFC生活の中で1番の転機ということで、どのような転機でしたか?
 高校生のときは、自分の好きなことを自分で好きなようにやってるわけじゃないですか。この授業で強制的に身に付いたのがグループワークをする力ですよね。十何人の全く趣向性の違う人たちが、お互いの能力もよく分からない状態の中で、ものすごい重い課題に向かって、一緒にコラボレーションしていかなければならないわけです。ちょうど班長だったので、分担を決めていくのは難しいなということを感じました。
 あと、1つの大学のたった2単位の授業に対して、そこまで情熱を持って取り組むのはバランス的にあり得ないじゃないですか。他の授業を全部蹴っても、その2単位のために全てをかける。徹夜も何日もしましたし、部屋も1つ部屋を借りてしまって、ずっとそこで寝泊りをして、体育館でシャワーをあびるみたいな生活をしていたんですよ。そこまで打ち込むからこそ、本気で調べて、アウトプットを出そうとするし、本気で議論をする。この授業のグループワークでそういう体の癖がつきましたね。
 もちろん、そのときのやり方は全くシステマチックではなくて、本当に泥臭かったです。アンケートも渋谷や新宿に行って、アンケートに答えてくださいというような、怪しい宗教団体みたいなことをやりました。今みたいにインターネットが普及してなかったのでアンケートも大変だったんですよ。でも、ひとつひとつ調べるための既存の手法を、自分たちなりに実践していきました。
 メディアも、パソコン、ビデオ、ありとあらゆるメディアを使いました。だから、そのためのツールを使う技術も覚えなければならない。だから、頭を使う部分とツールを習得する部分と、既存の手法を実践していく部分、その3つを同時平行でやりました。でも、目的はプレゼンテーションを誰よりもかっこよく、分かりやすくすること、というとても分かりやすいことでしたね。
 1つの体系だった半年間を過ごせて、一気にたくさんのことを学べました。社会に出てからの仕事も全部同じなんですよね。プロジェクトが始まって、複数の人がいて、最後は何らかの形でアウトプットを出さなければいけない。アウトプットは、やっぱり分かりやすく、面白そうでひきつけるような内容にしたい。だから、工夫をする。同じAという結論であっても、脚色や見せ方によって、かなり変わってきますよね。そのあたりが重要なんだなということを学びました。
研究会ではどんなことをなさっていたのですか?
 研究会は1つは藤幡正樹先生のところに所属していました。今はもう辞められて東京芸術大学に教授として行かれているんですけど、藤幡先生はメディアアーティストで、CGの世界ではすごく権威な先生です。
 僕は、コンピュータも好きだったんですけど、カメラも好きでした。その先生も昔、カメラをやっていたんです。2年生のころに研究室に行って、「写真がやりたんですけど、お金がないからスポンサーをしてくれませんか」というお願いをしに行きました。そうしたら、「フィルム代と現像代出して、カメラマンとして雇って、撮った写真全部いちゃもん付けてあげるから、出入りしろよ」と言われて、喜んで研究室お抱えのカメラマンとして活動しましたね。SFC YEAR BOOKの人いるじゃないですか、あの人たちもカメラ好きで、あのノリに近いかもしれないですよ。
 あらゆる授業でばりばり写真を撮りましたね。その先生はプロのカメラマンだったので、すごい難易度の高い指令が届きました。彼のやっているθ館の授業で偉い先生などを外から呼んでいるのを撮影しろと。ただ、すごい照明も暗くるするし、フラッシュとかも絶対たいちゃだめ。それでいて、ぱっちりと望遠を使って画角的にゲストの人の顔がびしっと入るように、暗い中で音も立てずに、フラッシュもたかずに撮れみたいなお題でした。それだけでも半年間写真のネタとして面白かったです。
 そんなことをやり始めながら、この研究室を出入りして、そこではどちらかというとアート系なことに取り組んでいました。そのまま研究室で3年からは作品制作を延々としていました。デジタルの作品とアナログの作品を両方作っていましたね。
 あと、いくつか研究室を兼務していました。今はいらっしゃらないんですけど、妹尾堅一郎先生の社会調査に関する研究室、高橋潤二郎先生というSFCを作った人の研究室など、あちこちの研究室に顔を出していました。

ホームページ1ページ10万円の時代、あえて手のかかる事業を選択

3、4年生の時にCD-ROMの制作会社を立ち上げたということで、その活動ではどんなことをしていらっしゃったのですか?
 当時、ちょうど94年の12月くらいに、初めてモザイクというブラウザが世の中に出てきたんですね。そのときに、SFC的にはテキストでUNIXを使っていた人たちの間で、絵が出てくると言って、衝撃が走りました。そして、SFC生の間でHTMLを組むのがブームになった。
 当時は、まだホームページという言葉は無かった時代で、日本のホームページなんて、NTTのサイト、英語のページくらいで、日本のページは限られた状態でした。そこでみんなしてHTMLを作っていて、自然の流れでHTMLを作るバイトをやろうぜという流れが出てきた。多くの友達たちがHTMLを書くのはおいしいなと思い始めていました。当時、相場的には、1ページ10万円くらいのバイトだったんですよ(笑)。だから、企業のホームページを10ページ作れば、100万円くらいもらえるという恐ろしい時代があってですね(笑)。それで、当時の学生は、けっこう潤ったんですよ。車買ったりだとか、MAC5台買ったりだとか(笑)。
 全体的にSFCのコンピュータ好きの中では、ホームページ制作会社を作ったりとか、ホームページを作る仕事を請けたりするのが流行った時期でした。そのときに、自分もそういう仕事をやっている中であまりにも競合が多いなと思ったんですね。ビジネスとして面白いし、儲かるんだけど、学内に競合が多すぎて仕事の取り合いになるなと。SFC生のネットワークなんてあまり幅が無くて、先生の知り合いの企業の人たちだとか限られてくる。そうすると、そこをみんな取りに行ってしまうから、あんまり優位性がないなと。だったら優位性のある仕事をやりたいなと思ったんです。
 そのとき、たまたま目についたのがCD-ROMで、当時はCD-ROMが全盛期だったんですよ。色々な雑誌に付けたりとか、CD-ROMのパッケージソフトとかすごい売れていた時代でした。当時はCD-ROMの需要が伸びている時代で、一方でホームページに比べるとCD-ROMは作るのが非常に面倒くさい。映像あり、プログラムあり、何でも入れなければならない。作成するのに、色々な能力が問われるんですよ。フォトショップのスキルだとか、テキストをライティングするスキル、プログラミングを書くスキル、映像編集のスキルなど、コンピュータの基本的なスキルというのが全部必要とされたんですね。けっこう難易度が高くて、学生には向いてなかったので、それを本気でやろうかと思ったのがきっかけです。
 商売というのは何でもそうだと思うんですけど、競合が少ないほうが、高く取れるんですよ。ホームページ1ページ10万も、あのときのバブルだと思っていたんですね。実際、作業は簡単だし、絶対こんなのは安くなるに違いないと思っていた。今はSFC生しかできないように思われているけど、そんなものはすぐに化けの皮が剥がれるなと思って。だから、CD-ROM制作をすることにしました。友達を何人か集めて、学校のそばに部屋を借りて始めました。企業から年に4、5本くらいのペースで受託して、1本が500万円から1000万円くらいでしたね。

急拡大する組織のデザインの難しさ

KLabでのお仕事の内容をお聞かせください。
 取締役を務めており、役員なので、仕事は、会社の経営半分、事業半分という感じです。会社をIT業界の中でどういう方向に持っていこうか、という広い意味での舵取りの仕事が経営の仕事になります。舵取りと一言で言っても、色々な仕事があって、財務面もあれば、次の3年どういう戦略を立てていこうかというようなことを考えて、実行していく仕事もあります。あと、意外と重要なのが組織の仕事です。
 人の採用から始まって、ひとりひとりが成長していくために、どういうキャリアプランを考えていこうかなど、そういった組織のデザインの仕事も経営の重要な仕事です。学生のみなさんからすると、意外とそういうことが見えないんじゃないでしょうか。おそらくどの会社でも、組織のウェイトは大きいと思います。
 急拡大している組織のデザインはすごく難しいんですよ。会社はすごく急拡大しているのに、人はそんなに急成長できない。そういうことがどこの会社にも共通していると思います。うちの会社にもそれはあって、どんなに能力の高い人でも、残念ながら会社の成長には基本的に追いつかない。ひとりひとりがすごい努力をして、会社が大きくなったときに自分ももっといっぱい仕事できるようにと思うのですが、なかなかそうはいかない。
 だから、足りない部分は新しい人を補填していったりして、組織を拡大していきます。すると、今度はノウハウ、ナレッジの共有とか、経験の共有というところで、新しい人と、元々いる人のコラボレーションがとても難しくなる。それでいて、IT業界は、スピードのとても早い世界です。例えば、新しい人は1年間研修ね、と悠長なことは言ってられない。すぐに実践に入らなければならない。そういったときに、バランスをとっていくのが実はすごく難しいんです。
 うちの会社もそうなのですが、往々にして、どこのベンチャー企業も組織のデザインに関しては悩んでいると思います。おかげさまで、今のところ増収増益です。厳しい業界の中でも勝ち残ってはいないですけど、生き残ってはいますので(笑)、今後ぜひ勝ち残っていきたいなと思っています。

KLab社内

KLabのビジネスモデル

事業に関しては、昨年の9月から、メディアプラットフォーム事業部で、新規事業の立ち上げを行っています。
 僕は、この会社の創業当時からいるのですが、まずはじめにこれまでのKLabのビジネスモデルをお話します。携帯電話で儲かるビジネスモデルの代表的なものが、ユーザ課金型のビジネスモデル。ドコモやau、Vodafoneの公式コンテンツに登録したサイトを開設して、月々100円から300円、ユーザさんからお金をもらうモデルです。着メロサイトを作って、月300円、一万人いると300万円お金が入ってくるじゃないですか。そういうビジネスモデルですね。その課金料はドコモ、au、Vodafoneの請求書と一緒に徴収してもらう。たぶんみなさんも1つ、2つくらい使ってると思います。そういうサイトを運営していくというのが、公式コンテンツのユーザ課金型ビジネスモデル。KLabでは、そういうサイトをコンテンツプロバイダー各社と一緒に数多く立ち上げてきました。
 携帯コンテンツという業界が始まったのは、99年にiモードが始まったときなんですけれど、この業界が伸びた最大の要因は、通信キャリア(携帯電話事業社)がユーザさんから利用料金を請求書と一緒に徴収してくれて、それをコンテンツプロバイダーに分配してくれる仕組みが出来たことです。インターネットで定着できなかった課金モデルが携帯で初めて導入されて、しかも携帯では、ユーザさんがコンテンツに対してお金を払うという習慣を文化として根付かせることができた。これがインターネットのウェブの世界と携帯電話のサイトの最大の違いです。
 ウェブのコンテンツは無料が根付いていて今さら有料というのは、どこもはやってないわけじゃないですか。お金がとれるのは、アダルトサイトと出会い系サイトばかりですよね(笑)。アダルトサイトと出会い系サイト以外は有料で成り立っていないわけです。それに対して、携帯は、些細なコンテンツでも、お金を払う人たちが非常に多い。もちろん些細なコンテンツでは生き残れないわけですけど、5000人、1万人くらいだったら、集めることはできるんですね。コンテンツでユーザに課金できるという点がビジネス的には、一番大きなところで、サイバード、インデックス、バンダイネットワークス、ドワンゴ、こうした携帯のコンテンツベンチャーが次々と上場した背景には、そういうことがあります。
 うちは技術研究開発の会社なので、そういった表のコンテンツ会社さんのバックヤードを徹底的に提供していくことをやってきました。業界の裏方みたいな感じで、とにかく下回りの技術とソリューションを全部提供して、レベニューシェアで収益を上げてきた。レベニューシェアとは、例えば売り上げが300円のサイトなら、最初は自社のリスクで開発の投資をする代わりに、300円売り上げが上がったら、150円うちに下さいというようなビジネスモデルです。
 KLabが関わったサイトで有名なところは、ウォルトディズニーのサイトとか、最近だとエイベックスのサイトです。例えば、昨年立ち上げたサイトで、エイベックスの倖田來未さんという歌手のサイトがあります。彼女のサイト企画を昨年の1月からスタートしていて、携帯でどうやってアーティストコンテンツ展開をしていくか、KLabプロデューサーたちが考えていました。まさに倖田來未さんの、ファン層は10代から20代の下の年齢層がターゲットなので、携帯電話のユーザ層と近い世代です。そういうことを考慮して、着メロや着うたはもちろん、携帯ならではのオリジナルコンテンツの見せ方などをエイベックスの方と一緒に考えましたね。それで、結果として現在はファンサイトのユーザ数が8万人以上います。
 ユーザ課金型のサイトを作る中で、うちは、企画からマーケティング、技術の提供までやって、儲かったら、一緒にシェアしましょうというビジネスを色々な会社とやっています。ここがうちの会社の一番根本で、そこから今ビジネスがどんどん派生しているという状態です。
 そして、次に始めたのが、ソリューションビジネスです。大手の会社さんが携帯電話でビジネスをするときの基盤の技術だったりとか、CRM (Customer Relationship Management)のシステムを提供しています。例えばリアル店舗を運営しているようなチェーン店の本部で、お店に来たお客様を携帯電話を使って登録してもらい、また来店してもらいたいとか、CRMを携帯電話でやりたいという会社さんを顧客として想定しています。そういうマーケティング活動全般に携帯電話を使うということを色々な企業向けにシステムで提供していきましょうというのが、ソリューションビジネスです。そういったビジネスをユーザ課金型サイトの次に始めました。今うちの会社の利益を支えているのは、その2つが大きいですね。

携帯電話上に「メディア」を作りたい

さらに、昨年9月から、新しい事業をスタートさせ、第3の柱を立てています。自分自身で担当をしているメディアプラットフォーム事業です。ビジネスの内容を簡単に言うと、携帯での無料広告ビジネスです。勝手サイトと呼ばれている公式ではないサイトでスタートしていて、インターネットと同じように自分たちで勝手にサイトを開いてお客さんを集めていくという今までの携帯電話の主流とはとは対極のビジネスです。しかも、利用料は通話料以外全部無料なのでユーザさんにはお金がかからない。
 ざっくり言うと、携帯のコンテンツは、公式コンテンツで有料課金の世界と、勝手サイトで無料の世界が大きく分かれていて、今までビジネスになったのは有料のほうだけだった。ただ現在、企業がマーケティングをするのは主に勝手サイトの領域なんですね。コンテンツが無料の世界で、広告モデルを導入するという、いわゆるインターネットと同じようなビジネスモデルが携帯電話でもそろそろできるんじゃないかと思ったんです。これを第3の柱にしようと思い、事業を立ち上げ、今色々な仕掛けをしています。
 一言で言うと、携帯電話上で「メディア」を作りたいなという野望がありまして、それを作るビジネスをしています。そのために「ケータイコイン」というサービスを始めました。事業の説明を簡単にすると、名前の通りなんですけれど、携帯上の共通のポイントサービスみたいなものです。みなさんもお財布の中に色々な会社のポイントカードがあると思います。あれを携帯に置き換えていきたいなというのが根底にあります。携帯上で、どんなサービスでもケータイコインという共通のコインを貯めることによって、色々な会社さんのサービスを受けることができたり、あるいは違うサービスに変えられるといったことです。例えば、楽天スーパーポイントとANAのマイレージが行ったり来たりできるようになっています。そういう世界を携帯上で専門で作っていこうと思います。
 また、通信事業者に関係なくドコモ、au、Vodafone全部共通で貯められ、1ポイント1円の価値で換算しています。他に貯めたものをここに移管してきたり、あるいはここで貯めたものを色々な他の商品にも変えることができます。例えば、今まで有料でユーザさんが買っていたコンテンツを企業からもらったポイントでダウンロードしたり、あるいはコマースで3000円の商品を買うときに割引購入したり、あとは単純に現金として銀行口座に出金したり、おさいふケータイEdyにチャージしたり。あと、他のポイントサービスに変換したりとかいったところを今始めています。
 「ケータイコイン」は、昨年の8月の頭から始めたのですが、今日現在で20万5千人会員がいて、今年の8月末までに90万人、2007年の8月末までに300万人のユーザさんを集めていくことを目標にしています。

ユーザさんがタダでコカコーラを飲めるというようなキャンペーンをやってみたい

広告モデルということで、ユーザさんがどうやってポイントを集めるかというと、広告を見るとポイントが貯まるということをベースにしています。例えば、メールで広告を見たり、ウェブに貼ってある広告をクリックしたりとか、あるいはページに貼ってある商材を買ったりとかすることによってどんどんポイントが貯まっていく。それを他のサイトでも貯めたポイントをさらに集約させて、どんどん一つの財布にポイントを貯めていく。お得なポイントが一箇所に集まるので、効率がいいですよね。
 このようなメディアをつくり、この上に企業からの広告を掲載します。企業から見ると、ここにいるユーザさんに対して、広告を打つことができるんですね。例えば、大きな消費財のメーカさんだとテレビにCMをうったりするじゃないですか、あるいは新聞に広告を載せたりしますよね。あれと同じような感覚で携帯電話にも広告をたくさん打ってマスに対してマーケティングをしたいという欲求がこれから出てくると思うんです。
 インターネットの広告は、昨年で1800億円くらいありました。携帯電話の有料コンテンツ市場が2600億円くらいから2700億円の市場規模なんですね。インターネット広告市場は今、伸び盛り。GoogleのAdWordsしかり、Overtureしかり。非常に伸びている業界です。
 一方で、携帯電話の広告市場はどれくらいかというと、インターネットの10分の1で、昨年180億円しかないんですよ。台数から言えば、パソコンよりも携帯のが圧倒的に多いわけです。日本の携帯は8300万台から8400万台くらいあって。その台数からすると広告市場規模がとても小さいんですね。つまり、企業が広告を出すメディアがないという仮説が立てられます。例えばCMを含めたある製品のプローモーション予算が10億円あったとして、その10億円のうち、テレビで7億円、新聞、雑誌で2億円、ウェブ、その他で1億円という予算配分だと思うんですけど、携帯電話は全く入ってこない。今、その受け皿を作っています。1億円分全部ちゃんと宣伝できますよと、そのくらいの力を持った携帯のメディアがあるんですよということを、この1年で作っていきたいなという野望があります。
 だから、目標は、コカコーラのCMがケータイコインのサイト上でがんがん流れて、ユーザさんはそれを見て、ポイントを貯めて、そのままコカコーラの自販機でチャリンと買う。タダでコカコーラが飲めるというようなキャンペーンをやってみたいんですよ。
 100円とか200円とかの商品はユーザさんはタダでもらってくださいと。その代わり、色々な販促活動を自分の携帯で受けて下さいねということをやりたい。それに対してお金を払うのは本末転倒なので、考え方としては、通信料の定額制が前提なんですね。パケット代ではなくて、完全定額制の中で、どうせ受信してもクリックしてもお金かからないのであれば、お得したほうがいいじゃないかという心理をついていきたいなと思っています。だから、定額制ユーザさんがターゲットになります。定額制ユーザは、約8400万台携帯電話がありますけど、そのうちまだ10%から20%の間を推移しているところで、これからどんどん伸びていくと思います。そこが大きくなってくると、こうした広告市場が立ち上がってくるんじゃないかと思っています。
 今は単純にポイントが貯められますよというサービスだけなんですけれど、KPN(ケータイコイン・ポイントネットワーク)というものをつくろうと思っています。ポイントサービスの仕組み自体を色々なサイトに提供していって、ばらばらにたまっているポイントを流通させるようなネットワークです。それによってユーザさんに色々なところで貯めたポイントを集約することができるという世界観を提供したいと思っていています。
 女性専門だとか、ある程度セグメントがはっきりした層向けにコンテンツを作っていくこともしています。そこはそこでユーザさんを集客していって、同じポイントネットワークでポイントがいききできるようなグループを作っています。KPNのコンテンツをパートナー企業を含めて50、いや100サイト、この1年間で作っていきたいなと思っています。ウェブでもネットマイルとかGポイントとかあると思うんですけれど、あれの携帯版みたいなものを目指していくこと考えています。
今後の仕事に対する目標は?
 仕事に対するテーマは高校生の頃から変わっていません。理工系の人が持っている有用な技術を、一般の人たちが使えるようなものにするためのプロデューサー的な役割を今後もやりたいと思っていますし、自分が作った新しいサービスで人々が幸せになったり、楽しくなったりすることをしたいというのが仕事をする上でのテーマなんですよ。そういう仕事に関わっていたいし、それをより大きな規模で、影響のある形でやっていきたい。わがままなので、できれば自分でハンドリングできる形でやっていきたい。だから大企業志向よりもベンチャー志向。大企業だと、組織の一部の自分ということで、規模は大きいかもしれないけれど自分のものではないですよね。それに対して、ベンチャー企業では、立ち上げたものは自分に責任があれば、自分のものであるという感覚もあるし、ハンドリングもできる。そういう意味ではベンチャー志向が強いですね。
最後にSFC生へメッセージをお願いします。
 最近、新しいものを作り出すクリエイティビティーが若干弱くなっているような気がしています。もっともっとSFCは、世の中をびっくりさせるような新しいものを生み出すところとしてガンガン攻めて欲しいなというのが、OBとしての気持ちですね。
 就職活動をしている人に対しては、大企業を見て回るのは全然悪いことじゃなくて、徹底的に見て回るべきなんですけれど、せっかくであれば就職活動のときにベンチャー企業という視点も取り入れて欲しいと思います。さらにSFCのOBがいて、話を聞きに行きやすいベンチャー企業があるんであれば、そこに飛び込んでいって、直接役員や先輩の話を聞いてみてください。1度はベンチャー企業にも挑戦してみるべきだと思っています。特にKLabはウェルカムなので、皆さんぜひ遊びに来て下さいね。

KLab受付