「SFCらしさ」を再発見し、激変する社会におけるSFCの役割を見出す「復刻! CLIP Agora」。今回は、シュアールグループ代表の大木洵人さん(2011年環境情報学部卒)。SFC在学中に手話サービスを提供する「シュアール」を創設したほか、手話サークル「I’m手話」を立ち上げた。昨年には、ロレックス社が行う社会貢献活動「ロレックス賞」を、ヤング・ローリエイツ部門で日本人として初めて受賞した。

大木さんとSFCの関係や「シュアール」について伺った前編に引き続き、こちらの後編では大木さんが受賞した「ロレックス賞」にフォーカスを当てる。

「もしかして?」で応募したロレックス賞

ロレックス賞受賞式の会場(画像: ©︎Rolex) ロレックス賞受賞式の会場(画像: ©︎Rolex)

—— ロレックス賞にエントリーしたきっかけはなんですか。

正直な話をすると、ロレックス賞の存在は全く知りませんでした。きっかけは「greenz.jp」というウェブマガジンで「ロレックス賞はこういう人を求めている」という例で取り上げられたことです。ちなみにその際に選ばれたのは、私と、子どもたちのための伝統ブランド「和える」の矢島里佳さん、ナチュラルコスメブランド「Lalitpur」の向田麻衣さんと、なんと全員がSFC生でした(笑)

そうやってロレックスが求めている人という形で取り上げられたということは、「私が応募すれば受賞できるのでは?」と思ったんです。それが応募に至った理由でした。実際にはあくまでもgreenz視点の人選だったということで、ロレックスは全く関与していなかったというオチだったのですが。

—— 実際に選考を受けていく中で、大変だったことは何でしょうか。

まずは、選考プロセスが1年3ヶ月ほどと非常に長かったことです。1つ1つのプロセスの結果が出るのが2、3ヶ月後で、忘れたころに連絡が来ました。2分間の動画が選考の課題に求められた時には、ちょうど出張中だったため動画を撮るためのいい場所がなく、ベッドの上にカメラを置いて、床に座って撮影したこともありました。

ビジネスコンテストや助成金など、審査を受ける機会は多く経験してきました。ですが、プロセスが長いだけあって、審査員が自分たちのことをとても深く調べてきているということを感じました。しっかりと自分たちのことを読み込んでいるので、下手なことは言えないという緊張感もありました。とはいえ、うわべだけを見て「これは面白そうだ」と判断しているのではなく、しっかり読み込んだ上で審査してくれているのは、厳しくはありますがうれしいことですよね。

厳しさを逆手に取り、自分のものにする

—— 審査は全て英語で行われるということで、日本人は選考で不利なのではないでしょうか。

それは逆手に取ることもできますよね。日本人があまり応募しないということは、逆に言うと応募した日本人は珍しい。ロレックスの目につきやすいのではないかと思います。

私は日本人初の○○という肩書きを多く持っているんですが、それはそもそも日本人初の挑戦者だった、というパターンが多くあります。例えば、カナダのトロントで開かれたビジネスカンファレンスがあり、日本からの参加者も熱心に募っていたのですが、だれも参加していませんでした。そこで自分はその話を聞いてすぐに参加を決めたのですが、日本から初めてきた参加者ということでとても歓迎されました。

他の例として、ビジネストゥデイという雑誌が主催したカンファレンスに参加した際、スポンサーの3分の1が日系企業にもかかわらず、250人の参加者の多くは海外の有名な大学の学生で、日本人は私だけでした。これはつまり日本のお金が海外に流れただけで、日本のお金を使って海外の人を育てるようなことだよなと思いました。それが悪いこととは言わないですが、もったいないなと感じました。具体的にその経験によって何かができるようになったとは言えないですが、その積み重ねによって得られたものは確かにあると感じています。

2016年度ロレックス賞、ヤング・ローリエイツとともに(画像: ©︎Rolex) 2016年度ロレックス賞、ヤング・ローリエイツとともに(画像: ©︎Rolex)

今回、2018年度のロレックス賞の応募資格は「30歳以下の人」なので学生の人が応募するにはハードルが高いとは思いますが、学生にはチャレンジできる場がたくさんあるので、頑張ってほしいです。確かに全部を英語でやるのは辛いけど、ロレックス賞の審査員はノーベル賞を取った人などもいます。そのような人たちの前で発表をして、意見をもらい、反論をするところまで全部英語というのはきつかったですが、過去の経験が生きました。

—— ロレックス賞は受賞後のサポートが手厚いと伺いましたが、いかがでしたか。

やはりロレックス賞は大きな賞なので手厚くサポートをしてくれます。また、ロレックスからの直接のサポートだけでなく、ロレックス賞を受賞したことによって他媒体の取材依頼が来たり、間接的な影響力の強さも感じますね。

また、ロレックス賞に関しては、ヤング・ローリエイツのカテゴリ(=30歳以下)に対しては特にサポートが必要だと考えているので、独り立ちのためにも手厚いサポートをしてくれます。この人に会いたい、ここに行きたいといった相談をすると、それに対するサポートもしてくれます。ロレックスの時計はもちろんすごいと思うのですが、そのすごい時計に集まってきている人のネットワークというのがロレックスの強みで、それを惜しみなく提供してくれるわけですね。ロレックスが支援する対象の多くはスポーツや文化系で、ビジネス系に支援するのはロレックス賞ぐらいなものなので、そういった意味でも別格な賞だと思います。

ロレックス賞×SFCの可能性

(画像: ©︎Rolex) (画像: ©︎Rolex)

—— 大木さんから見て、ロレックス賞とSFCは相性がよいと思われますか?

もちろん相性はよいのではないでしょうか。greenzが選んだ3人ともSFC生でしたし、自分自身も、問題に気づいて実際にアクションを起こすというのは、問題発見と問題解決を重視しているSFCでなければ無理だったと思います。

そもそもなぜSFC生時代に問題に気づけたかというと、「I’m手話」を立ち上げて、一青窈さんに依頼を受けて紅白歌合戦で手話のコーラスとして出演した際に、それが大きな話題になったからなんです。そこで、「手話に関する話題や娯楽が少ない」ということに気付きました。そして、「SFCにいるのだから何かできるのではないか」と思い学生向けの助成金の申請を出しました。手話の放送というと、NHKニュースはありますが、それは娯楽ではないので、ろう者の娯楽として手話の民放を作りたいといったアイディアです。

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実際に助成を受けて、インターネット上で動画配信をしました。今でこそYouTubeなどインターネット上で動画を配信することは珍しくないですが、当時はまだインターネットで動画を見ることはあまり一般的ではなかったため、100人程度しか見てくれませんでした。その挑戦そのものは失敗に終わりましたが、その挑戦を通して多くのろう者と接したことから「聞こえない人は緊急電話ができない」といったことに気づき、学びを得ることができました。

(画像: ©︎Rolex) (画像: ©︎Rolex)

多くの場合、問題を発見したとしてもいきなりその解決に至ることは難しく、いくつもの挑戦を経て初めて解決法が見えてきます。ロレックス賞に関しても、1回目で受賞してしまった私が言うのもなんですが、何回も応募をして、今回はここまでいったから次はここまでというように、複数回の応募を経て受賞に至るケースが多いそうです。そういう意味では、アイディアがあるのであれば、今のうちから応募をしても良いと思います。

今回は受賞には至らなかったのですが面白かった例として、「水バンク」というものがありました。途上国で水が貴重な国をターゲットとして、自動販売機のようなものを設置し、水が余った時にはそこに持っていき、水を入れると券が出てきます。水が足りない時にはその券を使って、水を得ることができるという仕組みです。まだアイディアの段階で試作品しか作れていませんでしたが、それでもファイナリストまで進んできました。こういったアイディアがブラッシュアップをして、次の応募で受賞に至るといったケースは十分に考えられると思います。

最近SFC生が元気がないという話を聞いています。若ければ若いほど、実績がなくても小規模でも、「やってみる」ことができます。今すぐ、チャレンジを始めてみてほしいですね。

ロレックス賞応募要項

ロレックス賞は1976年に設立された、人類に利益をもたらし重要な課題に挑む先駆者のサポートを目的とした賞だ。2年ごとに開催されるこの賞を受賞すると、資金援助を目的とした賞金と社会的な認知が提供される。2010年に次世代のリーダー育成を目指して、18歳から30歳の若者を対象とする「ヤングローリエイツ」が新たに設けられた。(2018年度からは「ヤング・リーダー」に名称を変更)

2018 Rolex Awards for Enterprise(Young Leaders)
対象年齢 18-30歳
受賞者数 最大5名
賞金 最大で100,000スイスフラン
締め切り 2017年6月30日

1.対象分野

  • 「環境」
  • 「応用科学と技術」
  • 「探検」

2.選考基準

  • 応募者の進取の気象とリーダーシップ
  • 独創性のある提案
  • 現時点での影響や潜在効果
  • 実現可能性
  • 活動に対するロレックス賞が果たす貢献度

応募に際して、いくつか注意点がある。ロレックス賞が対象とするのは、「世界の知識を広め、地球上のQOLを高め、人類の向上に貢献する独創的かつ具体的で実践可能なプロジェクト」とのことだ。従って、学術調査や純粋な研究活動は対象外となる。複数人が関わるプロジェクトの場合は、1名が代表して応募することになる。加えて、1名につき応募できるプロジェクトは1件のみとなっている。また、ロレックス賞の性質上、応募できるプロジェクトはこれから開始するもの、もしくは現在進行中のものに限る。既に終了したプロジェクトやロレックス賞の発表までに完了する予定のものは対象とならないので注意が必要だ。

毎回、世界100カ国以上から2000件を超える応募があるロレックス賞。審査は全て英語で行われるなど、ハードルの高さを感じるかもしれない。しかし、前後編に渡った大木さんの話からは挑戦することの大切が見てとれるはずだ。締め切りまで残り時間は少ないが、失敗は必ず、これからのためになると信じて、挑戦の一歩を踏み出してみよう。

2018年度 ロレックス賞応募ページ

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