23日(金)上山信一研究会が主催するセッション「2050年の世界を洞察する -デジタル万能主義を超えて-」が開催された。セッションでは現在の古典的な資料から現在の最新技術までを振り返ることで現代社会の仕組みを整理し、2050年の社会を洞察した。

現代社会はどうなっているのか

技術の面から現代社会を捉える

まず現代社会がどのようになっているかを探るため、上山研では現代社会を技術、インフラ、暮らしの3つの観点から考えた。

現代社会についての分析は技術に関することから始まった。技術に関しては、農業、商業、工業や製造業といったハードの技術と、安全、健康や教育といったソフトな技術に分け、それぞれについて分析した。また、どの産業でもプロダクト、プロダクション、プロデュースの3段階での技術発展の過程を経ていることを示した。

例えば、ハードの技術である農業の発展に関しては農業に関しては農業の発明とともに生じた原始的なプロダクト技術があった。その上で産業革命によってトラクターなどが使用されるようになった。その結果、食物の大量生産が可能になり、人口が飛躍的に増大した。この大量生産のための技術を、プロダクト技術という。また、大量生産の時代の後にはIT革命や消費ニーズの多様化によってプロデュース技術が登場し、個人にカスタマイズされた食品を提供できるようになった。

このようなプロダクト、プロダクション、プロデュースの3つの技術は商業、工業、更にはソフトな技術にも応用が可能だという。

技術革新には3種類ある 技術革新には3種類ある

また、これからの社会ではソフトな技術において、マスカスタマイゼーションの技術を軸に、プロデュースの技術革命が起きると予測する。マスカスタマイゼーションとはデータを個人をセグメントに分け、それにあったサービスを提供することで、プロデュース技術を低コストで実現する方法である。これを実現させることによって、ソフトな技術の例としてあげられる教育でも、家庭教師のように高額で、昔の王皇貴族などが使用していたものが低価格化できる。その結果、個人の成績データによるカリキュラムの作成と、そのカリキュラムの実践を繰り返す循環型の教育モデルになるという。データを活用することで、中世の貴族と似たような環境で個人に最適化された能力開発が可能になるという。

それに加え、健康面ではウェアラブルデバイスによる病気の予防システム、安全面では犯罪予測変数を利用した犯罪の未然解決を中心として、ソフトな技術においてプロデュースの技術革新が進んでいくとした。

国家から企業、そして個人へ インフラから現代を捉える

高速道路や新幹線、さらには家族や金融などといったインフラ。道ひとつを例に上げても、ローマ街道から一帯一路構想までインフラは社会に対して多大な影響を及ぼしてきた。そんなインフラについて、経営の3要素であるヒト、カネ、モノの3つに分けて、それぞれの中から家族、融資、物流の3つを分析から2050年のインフラを洞察した。

インフラとしての物流の歴史を振り返ると、コンテナによって歴史が大きく変わったという。一見ただの箱であるコンテナは、世界統一の規格が設定され、世界中全てのコンテナはその企画に基づいてできている。そのため、荷物をバラ積みにしていた時代と比べ、一度に大量の荷物を運ぶことが可能であると同時に、同じ規格のものを定期的に運ぶ定期便航路が発展し、グローバリゼーションに大きく貢献した。その一方で2050年ではシェアリングや1 to 1マッチングが登場し、余った労働力や余剰空間を効率よく使うことによる変化が起きると主張した。

また、融資においてもこの動きがあると予測する。関係性と目的が変化するパラダイムシフトを経験してきた融資でも2050年には1 to 1マッチングを利用した自己実現を目的とする社会が到来するという。融資の歴史を振り返ってみると、近代以前は商人同士の関係のもと、貸付を中心とした決済目的の融資が中心であった。そして近現代には利益追求のために利子を取るための金融が発達した。しかし、現代の鈍化した経済成長の中では、利益の追求のために融資をすることが意味をなさなくなってくる。それよりも、クラウドファンディングなどを通じて社会的に良いことのためにお金を払うことが主流になってくるという。このような利潤追求以外を目的とした融資はクラウドファンディング以外にもグラミン銀行などで見られていて、自己実現を目的とする共感金融の流れは2050年に向けて加速していくとした。

家族に関しては、目的に応じて家族を分ける「目的家族」を形成する時代になるという。女性が男性を支える核家族は、女性の社会進出や性マイノリティーを認めていく中で存在意義は薄れていき、現在とは違う家族を構成するようになる。また、現在では謝罪代行や結婚式のエキストラなどのサービスがあり、父親代行のようなサービスを利用して家族の団らんを楽しむために父親を呼ぶ。本人同士の血がつながっていなくても、目的が達成される目的家族であれば家族として認めてもいい。そういった価値観が2050年には受け入れられていると予想した。

インフラの主体は土地から石油、データへとシフトする インフラの主体は土地から石油、データへとシフトする

物流、融資、家族の3つからインフラの将来像を考えると、ローマ帝国の時代に国家が作っていたインフラは、現代には企業が整えるものになり、2050年は個人で整えるものになるという。インフラを動かす動力源に注目すると、近代以前はインフラの動力源は領土だったのが、石油へと変化し、将来的にはデータへと変わっていく。現在データはGAFAなどが握っているが、データは言ってしまえば個人情報で、データを握っている企業に対して個人が反旗を翻していくことによって個人がインフラの主体になる時代が来るとした。実際に現代でも、民主主義を利用して政治的理由、経済的理由、個人情報保護のための3つのパターンでデータを握っている企業に規制をした例がある一方で、個人情報を守るための規制は1件のみにとどまった。そのため、2050年の世界では、自分の個人情報を預けて、企業から自らの個人情報を守っていく情報銀行のシステムが必要になってくると結論づけた。

満足から楽しさ、血縁からつながりへ 暮らしの観点からの未来予測

SNSによって今まで以上に共感が重視される SNSによって今まで以上に共感が重視される

暮らしについては長寿化や経済成長の限界、余暇時間の増加を背景として仕事から暮らし、満足から幸福中心の社会になるという。また、これまで以上に人同士の縁や共感を重視するようになるとした。その詳細について、衣食住の3つの観点から分析した。

衣に関しては共感に基づいて評価をする社会になるという。具体的には、シェアリングエコノミーの発展やマスカスタマイゼーションの技術によってブランドレンタルや特注服、知らない人とのシェアリングが盛んになるといったことが挙げられる。自分にピッタリ合う服や、ブランド物のシェアができるようになる。今までは特注服に高額を払い、ブランドを誇示する文化だったが、これからは自分のコーディネートをSNSでシェアしたり、自分がデザインした服を販売することが普及していくという。

食はフードフェスやデリバリーサービスなどが中心となり、栄養補給や満足を超えた食の楽しさを追求する社会になるという。近代以前は自炊が中心で、近現代になるとファミリーレストランなどが登場し、内食から外食中心になってきた。その一方で、食フェスの参加者にアンケートによると、安くておいしいものを食べられること以上に食の選択肢が多様にあることや、人との交流を楽しめるといった楽しさとしての食事が大切になってくると考えた。

住に関しては住居の形態を産業や家族の変化とともに振り返った。産業化以前は大家族で古民家や長屋に住んでいたのが、産業化によって核家族で集合住宅に住むようになった。この背景には農林水産業を中心としたムラ社会から、都市化した社会へのシフトがあったという。そのため、リモートワークやホームオフィスによる働き方を中心とした社会では、プライベートとパブリックを融合した間が中心になってくるという。シェアハウスの中でもシングルマザーでも安心して子供と過ごせるものや、こどもから80代のお年寄りまで過ごせるものがある。このようなシェアハウスの存在によって暮らしの孤立を解消すると同時に、人とのつながりを中心に居住空間を形成する社会になるという。

2050はどうなるのか 資本主義、民主主義を超えた社会を平安貴族から読み解く

上山研では技術、インフラ、暮らしの観点から現代を分析してきた。そして、マスカスタマイゼーションやデータの活用、縁や共感を中心とした暮らし、個人を主体とするインフラの整備を特徴とした社会になるとしてきた。これらの特徴が全て揃った社会は想像しにくいが、ヒントは源氏物語にあるという。源氏物語の世界では、平安貴族は特注品の服をきて、和歌を詠み、もののあはれといった脱貨幣信仰の価値観で動いていた。また、日常の時間の使い方を見てみても、現代で言う仕事の時間は少ない。事務仕事は午前中の4時間位で済ませ、残りの時間は会食などに使うという。

和歌の重要性は現在では考えられないほど重要なものであることを説明した 和歌の重要性は現在では考えられないほど重要なものであることを説明した

和歌に関しては、美意識、教養、富の3つが求められたという。これによって当時の人の品格や教養が見られ、仕事においても恋愛においても歌人の評価材料となっていた。マスカスタマイゼーションが発展し、自分のオリジナルを大切にする時代においては貨幣経済の価値観にとらわれず、一瞬の感性を大切にする価値観に戻っていくだろうとした。またデータプラットフォームが発展した時代には和歌を詠むスキルはデータ分析の力になってくるとした。

現在、歴史的にも非常に大きな転換期にきているという。将来について様々な言説が飛び交っている。しかし、資本主義や民主主義といった一つ前の時代からの将来予測であるという。そのため、そういった近現代の価値観から脱却した将来を想像するためにはその更にもう一つ前に戻って考えてみることが重要だとした。

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