シラバスだけではわからない研究会の実情を、SFC CLIP編集部が実際に研究会に赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。第17回は、「教育」の本質を問う、長谷部葉子研究会(以下、長谷部研)を取材した。

教育とコミュニケーションの観点から社会問題を考察

 長谷部葉子環境情報学部准教授が率いる長谷部研では、教育とコミュニケーションの観点から、社会問題に対して様々なプロジェクトに取り組んでいる。現在、以下の5つのプロジェクトがあり、いずれも学生が教育の現場に立って活動している。(各プロジェクトの内容はリンクを参照)

 ・コンゴAcadex小学校プロジェクト(以下、コンゴプロジェクト)
 ・ヤングアメリカンズプロジェクト
 ・ニューヨークプロジェクト
 ・口永良部島プロジェクト
 ・日本語プロジェクト

「0から1をつくる」+「恊働」=「可能性をカタチにする」

 長谷部研の全ての活動に共通する重要なキーワードがいくつかある。「0から1をつくる」と「恊働」はその中でも特に重要なキーワードだ。長谷部准教授は、この2つを合わせることで「今無いものを、関係者全員が考えて共感を生み、自分たちにとって適切なカタチを作っていく」と説明する。これは長谷部研が重視する教育、すなわち人間関係の「本質」に結びつくもので、「可能性をカタチにする」という意味もある。

ゲストスピーカー、聴講生、高校生まで!? 開かれた研究会

長谷部研3

 研究会の前半では、長谷部准教授やゲストスピーカーによる講義が主として行われる。長谷部研は、ゲストスピーカーや聴講生の参加が多い、開かれた研究会だ。取材当日も、ゲストスピーカーが6名、聴講生が3名、さらに高校生が3名と、SFCの内外を問わないつながりの深さが窺える。
 講義に参加しているメンバーのコミュニケーションを最適な形にするため、ゲストスピーカーや参加者の特徴に合わせて講義の内容や進め方を変えるという。今回はゲストスピーカーに長谷部准教授が質問をして答えてもらうという内容だった。このため、一方的な講義ではなく、教室全体での対話のような印象を受けた。
 後半は打って変わって学生の個人発表の時間だ。学生は、自分が所属しているプロジェクトでの活動を通して感じたこと、気になったことを研究する。1学期内に最終発表を含めた4回の発表を経験し、学びを深める流れだ。
 また、研究会を終えたあとの時間には、プロジェクトごとのサブゼミを実施している。

「アットホームでにぎやかな雰囲気」個性あふれる研究会

長谷部研2

 長谷部研の雰囲気はどうだろうか。秋山明日香さん(総4)に聞いた。秋山さんは以前から国際協力に関心があり、1年生のとき、東南アジアの発展途上国の教育を支援するプロジェクトに参加した。それがきっかけとなり、2年生の春学期から長谷部研を履修している。
 所属するコンゴプロジェクトについて「ボランティア活動というよりは、コンゴの人たちとの『恊働』です。現地の人たちと一緒に小学校とその環境を作るのですが、現地の人たちの主導で続けていけることを重視しています」と話した。
 研究会の雰囲気については「とてもアットホームな研究会です。みんな個性豊かで、やりたいことに一生懸命です。それがお互いに良い刺激を与えています」と教えてくれた。
 「人と関わることが好きな人や、なにかに熱中することを苦に思わない人、やりたいことや自分のフィールドを探している人にはピッタリな研究会だと思います」

長谷部研の魅力とは何か 長谷部准教授が語る

長谷部研1

 長谷部准教授に自身の研究会の魅力について語っていただいた。

理論の前にまず実感を

 理論は大学にもともと絶対的にあるものです。でも「教育」は、生身の人間が育っていく環境です。だからこそ、学生にはちゃんと自分で現場に立って問題を実感してもらってから、理論と照らし合わせてほしい。人は普通、自分の経験をもとに問題を感じ、考えます。でも、それはあくまでも大きな構図の一部でしかありません。現場の内外で出会う様々な人とのコミュニケーションや、そこから生まれる相互理解を通じて、どうやって調整したり問題を解決したりできるかを考えてほしいです。コンゴプロジェクトにしろ、東京の中学生にコミュニケーションツールとしての英語を教えるニューヨーク・プロジェクトにしろ、全てのプロジェクトにおいて、参加している学生にはこれを実践してもらっています。

多様なSFCだからできること

 例えば、先ほど話したコンゴプロジェクトですが、これには長谷部研以外にも、様々な団体が関わっています。もともとはサイモン・ペデロ先生(英語科非常勤講師)の呼びかけのもと、義塾の教育、建築、医療系の3団体が「恊働」して進めてきたプロジェクトです。教える内容などのソフトな面は長谷部研が対応できますが、校舎の建設のようなハードな面は専門の方々に任せざるを得ません。このように、様々な分野の人材が集まっているSFCだからこそ、このような大きなプロジェクトが実現したと言えます。

履修を考えているSFC生へ

 長谷部研は「教育」をテーマにしていますが、教育者を育てることを目標にはしていません。この研究会を履修する学生には教育的マインドを得てもらいたいと思っています。「教育」を人間関係として捉えるならば、「教育」とは人の能力と可能性を引き出すもの、いわば「人を生かす」ことです。 
 研究会は週1日2コマですが、授業時間外でも研究会の活動を行います。毎月あるプロジェクトごとの合宿や、学期毎にある全体合宿などを通して、同じ釜の飯を食べると言いますか、自分の、そしてお互いの理解を深めます。このほかにも現地に長期間赴くなど、たくさんの時間を費やすので、研究や活動にどっぷり浸かれる人、何事にも真剣に取り組める人に向いているでしょう。
 興味のある方はまず聴講にいらしてください。やはり現場の雰囲気を自分で実感してもらって、自分との相性を考えてもらうのが一番ですから。

長谷部研4


 SFCは「問題発見・解決」や「創造・イノベーション」などを理念に掲げている。長谷部研では、これに加えて福澤先生が掲げた「実学」を通して、何が問題で、どうすれば解決でき新しいものを創ることができるか(0から1)を学べる場所だと感じた。