今回の14学則特集は座談会。第1部では、14学則制定の経緯やその背景についての談話をお送りする。教員からは、制定に大きく関わった加藤文俊環境情報学部教授、内藤泰宏環境情報学部准教授が参加。SFC学事からは、学事担当課長の中峯秀之さん、そして学生からは、SFCの学生生活情報を発信するWebサイト、Twitterアカウントを個人で運営する石崎翔太さん(環2)も参加してくれた。

■参加者
・加藤文俊  環境情報学部教授 次世代カリキュラム検討WGリーダー
・内藤泰宏  環境情報学部准教授
・中峯秀之  湘南藤沢事務室 学事担当課長
・石崎翔太  環境情報学部2年 学生生活情報サイト運営

■進行(文中オレンジ色)
・原光樹   総合政策学部1年 SFC CLIP編集部 14学則特集担当

(※加藤教授は何度か中座)
 

左から内藤准教授、加藤教授、中峯さん

14学則制定の経緯 カリキュラムの新陳代謝

— SFC CLIP編集部は、昨年12月6-26日に「14学則」についてSFCの学部生を対象にアンケートをとりました。今回は、その結果をもとに、14学則の制定経緯や、その特徴、そして現状で見えている問題点などの話をしていきたいと思います。  まず、14学則とそれに伴う新カリキュラムの制定に至る経緯や目的を聞かせてください。

加藤:
 まず前提として、SFCは「実験キャンパス」として始まったこともあり、良いか悪いかは別にしても、カリキュラム(仕組み)への関心がもともと高い土壌があるということを理解しておいたほうがよいでしょう。そのため、他学部や他大学と比べて、ものすごく頻繁にカリキュラムが改定されています。

内藤:
 SFCは「仕掛け」っていう言葉が大好きですからね(笑)。

加藤:
 学生が入学してから卒業するまで4年間かかるので、一度学則を改訂したら、4年間はそのルールを使い続けるのが常識的です。これまでSFCは、4年経ったらすぐに学則を変えるということも多かったのですが、今回の14学則制定は、07学則から7年間が経っています。SFCにずっといる教員の感覚からすると、「ようやく変わったなぁ」という思いですね。

内藤:
 僕は、07学則の制定にも参加させてもらいました。その当時、意識的に4年後には変えないと決めていました。4年おきに変えてしまうと、入学してから卒業するまで同じカリキュラムで勉強する世代が1世代しか生まれません。さらに、学生のほとんどが二つのカリキュラムをまたがって卒業していくことになります。これではその学則の効果を正確に測定するには不適切だろうと考えたのです。2013年度には、学生のほとんどが07学則適用者でしたね。こうした状況を作りたかったのです。
 

原点回帰としての「07学則」

内藤:
 14学則の制定にあたって、07学則のうまく動いていないところを修正したいという思いが強くありました。
 07学則は、「研究会中心」という考え方に回帰して、研究会を中心に据えた学習ができるような仕掛けを施した学則です。研究会のアウトプットとしての「卒業プロジェクト」が必修になったのも07学則からです。これは、07学則以前の学則において、研究会の存在感が薄れていた(研究会や卒プロが必修ではなかった)ことへの反省でもありました。
 SFC Version2.0と称された01学則では、学部へのクラスター(先端的研究領域)の導入や、院の授業が受けられるプログラムの設置に伴い、研究会の存在感が薄くなってしまいました。卒業するまでに研究会に所属して、卒業制作(現在の卒業プロジェクト)を履修する学生は現在の3分の1程度しかいなかったのです。 
 教員によっては、SFC Version2.0のことを、「そろそろ普通の大学になろう」という方向に舵を切ったものとして捉えている方もいます。2001年は、設立から10年が経ち、ほかの大学にSFCのコンセプトの良いところを追いかけられたり、追いつかれてしまったりしていた時期だったからです。
 

— そして、07学則以前の状況もあり、07学則からは「研究会重視」になったということですね。

内藤:
 07学則のコンセプトをすごく大雑把に言うと、「学生に任せよう」です。学生が学びたいように学べば、自主的に必要なことを選んで身につけ、社会に出て行くだろうということを期待したのです。例えば、環境情報学部で外国語の必修をなくしたことも、研究会に合わせて学生が適宜学べばよいだろうと考えていました。
 これは、研究に必要な外国語を自分から身につけてくれるだろうと期待しているわけであって、決して、外国語をやらなくてもよいと考えたわけではありません。しかし、実際は、外国語を全く履修することなく卒業していく学生が相当数出てしまいました。それは、英語であればTOEFLテストの平均点(の低さ)を見ても確認できたことです。
 これらの反省点から、14学則では、SFCを卒業した人の誰をピックアップしても「これぐらいのことはやってますよ」という最低限度のラインを定めたかったのです。その結果として、07学則よりも必修科目が多くなりました。

加藤教授

マスエデュケーションを補完するために

— 07学則は、「自主的な学生」を強く想定し、「研究会重視」につながっています。そうした、SFCの原点回帰としての「07学則」でもあったものの、現実は期待通りの学生ばかりではないため、14学則では進級や卒業に対する必修要件などを増やしたということですね。

内藤:  自主的な学生、いわゆる「とんがった学生」の邪魔をしないということは重要です。しかし、「とんがった学生」は学生全体で見ればマイノリティーであることもまた事実です。一部少数の「とんがった学生」がのびのびと輝いていれば、マジョリティーである「普通の学生」はどうなってもよいのでしょうか。いや、そうではありません。その二つは両立されなければならない。これは、マスエデュケーション(集団教育)の問題ですね。  SFCの学部生は、1学年に約1000人、全学年で4000人の学生がいます。それに対して、専任教員は百数十人しかいません。慶應のなかでも、SFCは学生数に対して教員が少ないのです。 石崎:  言語科目は特に少ないですよね。 内藤:  SFCではガイドとなるものがありません。だから、1000もの授業があるところに放り出されて、自分で124単位分(卒業に必要な単位数)をどう履修するかを考えなければなりません。下手をすると、「楽単情報」のような、教員からすれば「悪魔の囁き」がはびこってしまいます。それらをかき集めて履修を組み、「とりあえず卒業できればよい」というマインドに学生が陥ってしまうことはとても残念なことです。  そこで、07学則で強調されていた「自分で考えてがんばれ」だけでは、なかなかレールに乗り切れない学生が一定数いるということを見据えて、14学則では、07学則での理想、つまり「上手くいかなかった部分」を、少し現実に寄り添って修正しました。  

「SFCらしさ」とは何か―「とんがった学生」の支援と「とんがらせる」育成

— 一般的な「SFCらしさ」というイメージとしての「とんがった学生」を伸ばす教育が片方にあり、一方で、現実問題として、マスの人に向けて「普通の大学」のような教育も考えなければならない。SFCのカリキュラムの変遷を見ても、両者の振り子が行ったり来たりしているように見えます。

内藤:  そうですね。ちなみに僕は、「とんがった人」というのは、生まれつき決まっている属性ではないと考えています。何かきっかけさえあれば、スイッチが入って自ら走り出す人がたくさんいるはずです。SFCは、一人でも多くスイッチが入る人を増やしたいとも考えています。  スイッチが入るキッカケのひとつに「研究会」があるならば、学生が自分に合った研究会に出会えるような工夫をします。研究会をあれこれ移ることができるようにしていることも、ひとつの工夫です。  入学するときに、特殊な学生を引っ張ってきたというわけではなく、「SFCだからこそ開花した」というような学生が、どんどん増えていけばよいです。実際、東京大学でも“こんなやつ”にはなかなかお目にかからないだろうという学生が、ちらほらSFCの卒業生にはいるんですよ(笑)。  

— 入学時に「とんがった学生」だけを集めるのであれば、AO入試だけを実施すればよいということも言えますよね。

内藤:  SFCがAO入試でねらっていることは、AO入試で入学した「異質な学生」たちを、一般入試で入学した、受験勉強的なスペックが数値化されて輪切りにされた学生たち、ある意味での「金太郎飴」のなかに少し混ぜることで、学生コミュニティを活性化させようというものです。同世代なんだけど全く違ったバックグラウンドを持っている学生たちが混ざり、刺激し合うことによって、ほかの大学生活とは違う成長ができるような、そういう場所にしたいという思いがあります。

内藤准教授は07学則にも関わった。

 

07学則からの変化―学生と教員の認識の「正しいズレ」

— 学生の立場からすると、必修科目も変わったり、カリキュラム概念図も変わったりと、07学則から14学則への変化は、ドラスティックなものであるというイメージが強いように感じます。しかし、ここまでのお話を聞いていると、大きく変化したというよりは、07学則のバグを取るという意図が強いという印象を受けました。

内藤:  「大きく変わった」と学生が感じることは、ある意味当たり前だと思います。「学生を放っておくと、期待する方向には進まない」という部分に「仕掛け」を施して学生を導く、ということがカリキュラムの存在理由です。たとえ、カリキュラム全体から見れば「マイナーチェンジ」に過ぎなくても、学生目線では大きく変わったように見えるのであれば、成功だったんじゃないかと思います。 中峯:  教員の多くは、「変化が少ない」と感じています。対して、学生の実感としては、今おっしゃっていたように「メジャーチェンジ」なんですよ。  07学則では、まったくの任意で自由に取れる単位が96単位もありました。変わって、14学則では、60単位になりました。36単位マイナスになったということです。この目に見える数字の変化も、アンケートで寄せられた声に多かった「自由さがなくなった」という反響の大きな要因だと思います。  しかし、07学則以前の自由に取れる単位数を見てみると、どの時期もおおよそ60単位なんです。この数字が多いか少ないかを他学部と比較すると、明らかに大きい。法学部も自由に取れる単位数が多いのですが、それでも40単位程度しかありません。  

— 他学部、他大学と比べてしまえば、SFCは必修も少なく、縛りが緩いことに変わりはありません。07学則のカリキュラムと比較したり、先行する「自由」というSFCのイメージがあるため、その間のギャップから反発が生まれているとも言えるでしょうね。

学事の中峯さんはSFCの自由度を強調する。

 

教員と学事の役割の違い

— 学則制定に関わらず、教員と学事の役割分担がどのようになされているのかが不透明だと感じている学生が多いです。学生が、履修制度などに疑問や意見があった場合に、教員と学事のどちらに言えばよいのかわからないことも多いと思います。教員と学事、その役割分担を簡単に教えてください。

内藤:  事務的なことを知りたい場合は、基本的には全て学事の窓口(α館1階)に行くのがよいでしょう。教員の僕が言うのもなんですが、教員が進級・卒業要件などの細かいルールを正しく知っていると思わないほうがいいですよ(笑)。  学事の方々は、学則等に関して問い合わせたら、「仕事」として責任を持って答えてくれます。逆に言えば、責任を持てないことには答えてくれません。  教員によっては、学則が変わっても自身の仕事にはあまり影響がないことも事実です。ですから、細かいルールに関しては、ときに無責任な事を言ったり、勘違いして間違ったことを言ったりする場合があります。教員の言っていることと、学事の窓口で聞いたことが違っていれば、学事の回答が正しいと思ってもらって構いません。 加藤:  ただその一方で、自画自賛のようになってしまうけれど、ほかの大学で僕が教えた経験から言っても、SFCにはほんとに教育熱心な教員が多いです。みなさんそれぞれに「想い」を持っているので、それは聞きにいったらちゃんと答えてくれる。  しかし、教員が何かやりたいと言っても、教室や時間は限られているし、時間割を組み立てることは教員にはできない仕事です。僕らがこうしたいという希望がそのままルールになってしまうと、絶対にどこかおかしくなるので、そこは中峯さんをはじめ、学事の方がチェックして、ルールを実現可能なものにしてくれます。  

「教員」と「学事」の境界線の曖昧さ

— 僕は、教員が「政治家」のようにコンセプトを考え、学事は「官僚」のように、ルールの整合性が取れているかどうかなどをチェックするという役割分担だという印象を持っていました。

内藤:  そういう役割分担もなくはないけど、そうした両者の役割分担がありつつ、その境界線が曖昧になっていて、お互いの領土に片足を突っ込み合って仕事をしています。  「事務の人はここには口を出さないでくれ」と他学部で思われているところにずかずかと学事の人がコメントしてきたり、逆に「事務のこういうところにはあまり関与しないだろう」と一般的には感じるところに教員がアプローチしたり、本当に教員と学事の境界が良い意味で曖昧で、うまく一緒にやっているのもSFCの特徴です。  07学則を制定するために、当時、夏休みに合宿を実施したのですが、そこにも学事の方が2人参加したほどです。 中峯:  今回の14学則制定でも40回以上にも渡って会議を重ねたのですが、学事からも3人が同席させていただいて、教員の方々の議論に参加させていただいたんです。 加藤:  政治家と官僚という例えは、あまり適切じゃないと思うな(笑)。できることとできないことがあるという意味で役割は分担されているけど、違うと思うな。むしろフラットな仲間っていう感じですね。 石崎:  普段の「教員」と「学事」というイメージからするとなかなか想像できないです。 内藤:  そもそも、ここ(座談会)にいる学生・教員・学事が、SFC-SFS(Site For Communication among Students, Faculty & Staff)のS・F・Sですからね。そのような名前をつけているあたり、三者のフラットな関係を表しているようにも思えます。 =次回に続く=    第1部では、14学則の土壌となった07学則以前のカリキュラムの話や、その経緯を聞いた。次回は、いよいよアンケート結果を用いながら、14学則自体の話に入っていく。