14学則特集 座談会。第1部では、14学則制定の経緯やその背景についての談話をお送りした。第2部は、アンケート結果をもとにしながら、14学則の特徴についての語らいを聞いてみよう。

■参加者
・加藤文俊環境情報学部教授 次世代カリキュラム検討WGリーダー
・内藤泰宏環境情報学部准教授
・中峯秀之湘南藤沢事務室 学事担当課長
・石崎翔太環境情報学部2年 学生生活情報サイト運営

■進行(文中オレンジ色)
・原光樹総合政策学部1年 SFC CLIP編集部 14学則特集担当

(※加藤教授は何度か中座)

「アスペクト」の導入

— ここ(第1部)までは、14学則の制定経緯や、これまでのカリキュラムとの関連についてお話を伺ってきました。ここからは、新カリキュラムで特徴とされていることに関して、アンケート結果も用いながら議論していきたい思います。

石崎:
僕は、初めて14学則の話を聞いたとき、「学則が大きく変わるんだな」と感じました。しかし、いままでのお話にもあったように、学則が施行されてみると、あまり変化していないのでは、という印象の方が強くなっていきました。
データサイエンスや外国語の必修要件などは、07学則の「研究会重視」に加えて、学生がやりたいことを見つけたときに、すぐスタートできるためのスキルを与えているものですよね。
ただ、そうした「やりたいことが見つかった学生への環境」が整備された一方で、「やりたいことが見つからない学生」もまだまだ多いという実感があります。僕も、1年生のときは「何をやればいいのかわからない学生」の一人でした。
14学則で新しくできた「アスペクト」[*1]は、そうした「やりたいことが見つからない学生」を支援するためのものだと思うのですが、それを活用している学生は少ないようにみえます。そもそも知らない学生も多い。僕の記憶では、今年(2014年度)の新入生ガイダンスでは、アスペクトの話はされていませんでした。

内藤:
ガイダンスで説明がなかったとしたら、それは残念な話ですね。
アスペクトを認知していない学生が少なくないということですが、アスペクトは卒業要件にも入っています。卒業プロジェクトの申請条件として紐付けされているので、教員のアスペクトは一度設定すると変更できません。◯◯年度にはAというアスペクトだったのに、◯◯年度にはBというアスペクトに変わってしまったら、学生の履修計画に支障をきたすことになりますからね。
アスペクトが卒業要件に関わっている(メンター教員の指定するアスペクトを満たさなければいけない)のは、学生に「アスペクト」に目を向けてもらうためです。ただ、現時点の設計では、ランダムに授業を選んでも充足するはずなので、「アスペクトを満たさないから、◯◯先生の卒業プロジェクトを履修できません」ということは、ほとんどないようにできています。

中峯:
学事としては、広報が足りない部分もあったと反省しています。次の総合政策・環境情報両学部のパンフレットでは、アスペクト専用のページを丸々1ページ設けて、広く周知できるようにする予定です。

[キーワード1] アスペクト
14学則から導入。学生が興味や関心に応じた授業・研究会を見つけるためのガイドとなるもの。
「アスペクト」とは、既存の学問領域ではなく、複合的なテーマ、手法、学習スタイルなどの観点から、SFCで行われている研究のアスペクト(側面)を取り出したものであり、SFCの教員と、SFCで開講されている授業は、これらアスペクトを介して結ばれている。
SFCには、他大学や他学部のように、入学から卒業までに何を学べばよいというモデルはないため、学生自身が、興味や関心のある問題を発見し、それを解決するために必要な力を、自身の考えで身につけることが求められる。(http://www.sfc.keio.ac.jp/pmei/curriculum/feature.html参考)

「アスペクトを活用していますか?」という質問に対するアンケート結果。8割以上の学生が有効に活用できていないと回答している。

アスペクトはひとつの判断材料に過ぎない

加藤:
学生に理解してもらいたいことは、あくまでアスペクトは補助的なものであるということです。
学生のなかには、入学する前から研究会を決めている人もいます。そのほかにも、学生が所属する研究会を決める際には、授業や、友達からの噂などを参考にしますよね。アスペクトは、その判断材料のなかの一つであり、アスペクトだけで履修計画の方向づけができるものとしては設計していません。
ただ、いわゆる楽単やオフ日の都合で履修を決めている学生が少なからずいるという現状を、少しは改善できればよいと思っています。

意外な「つながり」を可視化するアスペクト

内藤:
さらに、アスペクトのねらいをいえば、教員や科目の意外な「つながり」を可視化することです。
総合大学並みに多様な科目があるSFCの環境では、卒業までの124単位で様々な科目を履修しながら、自分の専門を深めていくことが可能です。それは、半ばSFCの学生の特権のようなものです。SFCの学生は、4年生時に卒業プロジェクト(自分の専門)に取り組んでいる最中に全く違う分野の科目を履修していますからね。そうした視野の広がりを確保できることがSFCの強みです。その際に、アスペクトが役に立ったらおもしろいかなと思います。

加藤:
そうしたアスペクトのねらいは、教員のなかでははっきりとしているのだけど、それが学生にはしっかり伝わっていないのでしょうね。

アスペクトの概念図(http://www.sfc.keio.ac.jp/pmei/curriculum/feature.htmlより)

アスペクトのポテンシャルを引き出すためには

— アンケートで見られた、アスペクトに否定的な意見には、『正直アスペクトはわかりにくいので、各研究会の情報が載った冊子等を作ってほしい』という声もありました。

加藤:
アスペクトに関して大学からの説明が足りないという指摘は事実だと思います。しかし、研究会の情報収集をしたり、アスペクトを実際に活用したりするのは学生です。なんでも「大学側に作ってほしい」と要求するのは、サボり過ぎなんじゃないですかね。

— もちろん、学生も自主的に取り組んでいった方が良いに決まっています。それも「SFCらしい」といえるのですが、それでは大学側が「アスペクト」をわざわざ作った意義がよくわからなくなってしまいます。「大学側と学生がともに作り上げていく」という手前の段階で、もっと大学側にもできることがあるのではないでしょうか。

内藤:
アスペクトをもう少しビジュアライズ(可視化)できたらよいとは思っています。
しかし、忙しい教員に頼ることはなかなか難しい。一つの案として、例えば、ORFでアスペクトをビジュアライズするウェブアプリのコンテストを開き、賞金を出すということをしてもよいかなと考えています。そして、優勝作品は正式に実装する。

石崎:
ただ可視化する以外にも、例えば04学則にあった「クラスター」[*2]と今回の「アスペクト」を組み合わせて、学生の関心領域に合わせたレコメンドのようなものを作ってみてもおもしろそうですよね。過去の学則のいいところを組み合わることで、新たな可能性が見えてくるかもしれません

[キーワード2] クラスター
01学則・04学則時のカリキュラムに存在。SFCが取り組んでいる先端的研究領域を示すもので、全15のクラスターがあった。各クラスターでは履修推奨モデルが提示され、どの科目を履修するか迷った学生は、そのモデルを参考にすることができる。14学則のアスペクトは、こうした概念の延長にあると言える。詳しくは以下の記事を参照。

中峯さん

セーフティーネットとしての「クラス制」

— 14学則の特徴として、ほかにクラス重視[*3]と両学部の必修の同一化[*4]がありますね。クラスを重視するに至った経緯は何でしょうか?

内藤:
クラス重視の大きなねらいは、「SFCに入学した当初、最低限の所属コミュニティがあったほうが良いだろう」というのものです。

中峯:
クラスという考え方をぜひ、ということは、学事の方からも強くお願いしたことです。その理由は、多くの学生さんからは見えにくいところにあります。今回の 「クラス」に関するアンケートを見させていただきましたが、申し訳ないですが、ここにしっかりと意見を出してくれている人にはあまり興味がありません。
学生さんのなかには、大学に馴染めず、入学後すぐに休学・退学してしまうといった方が残念ながら毎年一定数いらっしゃいます。彼らには大学に上手く溶け込んでいくための「キッカケ」がなかったのではないかと思っています。このことを非常に残念に感じています。
そこで、一番初めに「クラス」という強制的に同級生と一緒に過ごす場所を設けることで、話をする「キッカケ」が生まれてきますよね。今年、その効果がどのくらい出たのかはまだ総括はできていませんが、その効果は学事も意識して見ています。
アンケートに意見してくれるような「やる気のある学生さん」は、それはそれで構わないのですが、「ここ」(アンケート結果)に「声」をあげられないでいる学生さんにも目を向けてあげたいということもクラス制度の導入の大きな理由になっているのです。

— それは、表向きの説明には出てこない「裏」の理由ですね。

内藤:
しかし、大学に出て来られない人にとっては、それが「表」ですよ。

中峯:
そうです。リタイアする学生さんたちだって十分に可能性を持って研究会などで活躍ができたかもしれないのに、たまたま「キッカケ」がなかったために休学・退学になってしまうことは悲しいと思います。

— アンケートには、『クラスに馴染めないことによって、逆にネガティブな気持ちになっている』という声もありました。それでもクラスはあったほうが良いということですよね。

中峯:
もし、クラスが何年も続くのなら、そう答える学生さんは生活しにくくなるかもしれませんね。ただ、「クラス」として同じ授業を日々履修してという期間があるのは実質一番最初の半年だけです。クラスはあくまで、「キッカケ」に過ぎません。

内藤:
クラス制があることでネガティブな状況になる人は確かにいるでしょう。しかし、クラスがなかったらその人が良い方向に行けたかというと、必ずしもそうではないと思います。「嫌な思いはしなくて済むが、学校に馴染めないことには変わりない」という状況なら、プラスの要素はないですよね。クラスによって、プラスになっている人たちがいるのに、クラスをなくすのかというと、それは無理です。総体として学生の幸福度がどうやったら上がるのかということを考えて大学は運営されていますからね。

— 人付き合いが苦手だから、クラスみたいな制度が嫌だと言っている人が、ほかのところで友だちを作れる可能性が高まるわけじゃないですからね。

中峯:
もし、クラスのような人付き合いが苦手なだけなら、そういうなかでも生きていけるキャンパスだと思うので自由に学生生活を過ごしていっていただければと思います。そういう状況では生きていけない学生さんを救済するための一つの方策というのがクラス制の目的の一つだと思っています。

[キーワード3] クラス重視
14学則に伴う新カリキュラムでは、クラス単位での学びの機会を重要視している。1年生の春学期にクラス単位で受ける授業には「体育1」、「情報基礎1」、「心身ウェルネス」、「言語コミュニケーション科目」がある。
同じクラスの仲間と一緒に学ぶなかで、仲間との絆を培うとともに、学びの可能性を発見・再発見することをねらいとしている。
クラスには、それぞれ教員2名の担任が設置されている。

必修増加とクラス制による「効率化」

内藤:
07学則より前にも「体育科目」にはクラス分けはあったのですが、07学則時に情報科目も同様にクラス単位にしました。それはやってよかったという感触があるんです。
さらに、14学則では「言語コミュニケーション科目」という必修(総合・環境ともに8単位以上)が増えました。その際、クラス制は時間割デザインにおいて効率がいいんです。

石崎:
学生目線で述べると、07学則だと1年生の春学期に「言語コミュニケーション科目」が取れないことがありました。必修科目に被ったり、履修選抜に落ちたりという理由です。しかし、14学則ではクラス単位で言語の履修が組まれたおかげで、体育などと被らなくなり、春学期から「言語コミュニケーション科目」 を確実に取れるように改善されていますよね。

肯定されている「クラス」 高校以前からの橋渡しのために

— アンケートの傾向調査では、クラス制について現状維持以上を希望している学生が全体の8割を占めており、減らすべきは13%しかいませんでした。クラス制を否定的に捉えている学生は全体から見たら少ないようです。
また、クラス制に肯定的な意見のなかには、『最初にクラスまとまりがあったことで救われた』『クラスのつながりから、ほかでは得られないような仲間を得ることができた』という声がありました。この結果からも、いま皆さんがおっしゃっていたクラス設置のねらいは機能しているといえる部分も十分あるのではないでしょうか。
否定的意見のなかで、僕が気になったのは『受ける授業が少ない上に、半学期しか縛りがないので、このような期間では仲良くはなれない』という様なものです。こうした意見は一定数ありました。こうした人たちは、高校以前の「クラス」というものを強く想定しているように感じます。

加藤:
「クラス」は、高校以前のホームルームのようなものとしては設計していません。むしろ、高校時代の「クラス」に良い思い出をもっていた人に徐々に大学に適応していってもらうためのものですね。

— 高校以前は、クラスという「ハコ」に閉じ込められて、そのなかで人間関係をどう調整していくかが問題になります。しかし、大学になると、友だちやコミュニティも自ら獲得していかなければならないものになりますよね。

内藤:
「クラス」が存在するのは実質半期なので、苦手な人もそこまで負担にはならないと考えています。卒業までの居場所とは全く考えていません。

「クラス単位の授業を増やすべきだと思いますか?」という質問にたいするアンケート結果。多くの学生がクラス制を支持しているようだ。

クラスを中心とした仲間づくりや可能性の発見・再発見を

中峯:
皆さん、研究会もサークルも、自分の興味で選びますよね。一方、クラスは機械的です。なので、逆に機械的に振り分けられた集まりの中からのつながりから、別の何かが生まれるということを期待しています。

石崎:
僕は、昨年、クラスで出会った人たちに声をかけられて、一緒に新しいことを始めるということがありました。いま中峯さんがおっしゃったように、クラスは研究会やサークルとは別に、いろんな分野の人とのつながりを作る場になるのだと思います。

加藤:
それは理想型の声ですね(笑)。いくつもコミュニティを持っていることは、豊かな学生生活だと思いますが、いつか戻れるグループとして「クラス」が機能することが、僕たちの望みの一つですね。いま、一人そういう人の声が聞けたというのは、うれしいことです。

必修要件の同一化

— 総合と環境の必修科目がほとんど同じになりましたね[*4]。これぐらい必修科目が一緒なら、二つの学部に分かれている意味はあるのか疑問になります。アンケートを見ても、そういうふうに思っている学生も多いようです。

中峯:
両学部の必修科目の差に関しては、実はSFCで両学部で必修科目が異なったのは07学則だけなんです。25年の歴史の中で7年しかありません。だから、SFCの考え方としては必修科目において両学部に差がない方が普通ということになります。

内藤:
07学則のときは、両学部の差を打ち出そうとしました。学生から見て、総合と環境で差がないように見えるという話でしたが、受験産業の中ではSFCは両学部とも文系の棚に入れられてしまうんです。しかし、環境情報学部は理系的なマインドを持った学生を求めているので、そうした状況で両学部の差をアピールしたかった。

加藤:
SFCが学部間で必修単位や履修パターンに差を設けていない理由の一つは、学生の入学後のコンバート(目覚め)に対応できるようするためです。実際、昔は途中で学部を変更する学生も一定数いました。この点から、両学部の行き来はよくできた方がいいだろうという議論がありました。入学時の学部が学生を縛ることになると良くありません。

[キーワード4] 必修科目の同一化
14学則における必修科目は、「総合政策学」と「環境情報学」を除いて、総合・環境の両学部で同一となった。
90・94・97学則での学部内専門科目、01・04学則でのクラスター科目、07学則では自然言語と人工言語に関する扱いなど、カリキュラムにおいて総合・環境に明確な差が見られたが、14学則ではカリキュラム上の差はほとんど見られない。こちらも同様に以下の記事を参照。

左から内藤准教授、加藤教授

二つの学部である必要性は? 「双子」である意味

内藤:
SFCの教員内で、「総合と環境が双子の学部である」ということは了解されているのですが、双子だけど「同じ」なのか、双子だけど「違う」のかということについては、意見はばらついています。僕は個人的に違うと思っています。
総合と環境は、先生の顔ぶれを見ても全然違います。さらに、その上で境界領域でどちらにも足をつってこんでいる教員も多い。ただ皆さん自分の立ち位置はしっかりわかっていると思います。自分がどちらの学部に大きく足を突っ込んでいるかははっきりしている。総合9で環境1の人は環境情報学部の教員とは言えませんからね。
このように、本質的に分かれている両学部を、カリキュラムも分けて違いを出す必要はありません。カリキュラムを変えたから変わるというのは非常に薄っぺらいと思いますし。

—SFC(の教員や学生)を説明するときには、総合と環境の二本柱と両学部のバランスで説明することしかできないわけであり、本質的に両学部は分かれているということですね。

内藤:
総合と環境の片方だけにいる人もいれば、両足を突っ込んでいる人も確かにいる。ということは、総合と環境は違うものなんだけど、それはゼロかイチの違いではなくて、アナログ(連続的)な違いなんですよ。白と黒を混ぜて、みんなで灰色になろうと謳っているわけではなく、白い場所も黒色や灰色の場所もあっていい。混じりようがない二つのものが衝突し続けているのが良いんですよ。
SFCは文理融合という一つのゴールを目指しているわけではなく、常に新しい領域を開拓し続けていくのが使命だから、一つの学部にしてはいけないんじゃないでしょうか。

— 「総合」と「環境」という異質な二つのものが衝突し続け、そこから生まれるダイナミズムこそが、SFCから新しいものが生まれ続けるために必要なのかもしれませんね。

=次回に続く=

次回、第3部では、2014年度から施行された4学期制とそれに伴う履修制度などの変化について議論していく。

参照

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