27日(月)、慶應SFCキャンパス敷地内に初めて寮が建てられる。その寮「Η(イータ)ヴィレッジ」について、政策・メディア研究科委員長の加藤文俊教授と塾生代表の山田健太さん(総3)の対談を、CLIPが独占取材した。Ηヴィレッジに込められたメッセージや、今後どのような姿になっていくか、期待やビジョンなどのお話を伺った。
入寮の第2期募集が28日(火)から始まるので、希望者はよくチェックしよう!

Ηヴィレッジ正面玄関(全塾協議会提供) Ηヴィレッジ正面玄関(全塾協議会提供)

スパイスとハーブの名前がついた5つのハウス

「暮らしながら学ぶ、学びながら暮らす」をコンセプトとするΗヴィレッジは、5つの棟で構成されている。棟の名前は、スパイスとハーブの名前から由来し、カラーやシンボルも分かれていることから、各棟の個性が醸し出されていた。

Ηヴィレッジの概要と見学会の様子は、こちらをチェックしてもらいたい。

共用棟 居住棟
(男女フロア別)
居住棟
(女性)
居住棟
(男女フロア混合)
居住棟
(男性)
SALT
ソルト
PAPRIKA
パプリカ
TURMERIC
ターメリック
ROSEMARY
ローズマリー
BASIL
バジル

本館前にあるロゴマーク 本館前にあるロゴマーク

棟の入り口には、それぞれのシンボルマークが描かれてあった。
「TURMERIC」ハウスの玄関口(全塾協議会提供) 「TURMERIC」ハウスの玄関口(全塾協議会提供)

出来立てのSALTハウス2階で対談

対談は、食堂や会議室スペースなどがある「SALT」ハウスで行われた。塾生目線で山田さんが質問を投げかけながら、対談が進んだ。

左から加藤教授、山田さん(全塾協議会提供) 左から加藤教授、山田さん(全塾協議会提供)

寮での共食を表す、刺激の「スパイス」と癒しの「ハーブ」

 山田さん

棟5つの名称に込められたメッセージはなんでしょうか?

 加藤教授

住まう人みんなが、建物に対して愛着を持てるような名前をつけようと思案しました。でもこれが難しくて。個人的な趣味も入りますが、食卓を囲むいわゆる「共食」が、寮の風景や思い出の中には含まれるんじゃないかなと思います。初めは「スパイス」だけにしようとしましたが、話が進む中で「癒し」も必要だろうという話になり、「ハーブ」を入れることになりました。
選ばれた5色は、石川初研究室で行われていた「鴨池パレット(注)」というプロジェクトを個人的に知っていたので、SFC由来の色で棟のアイデンティティを分けることできました。

「鴨池パレット」とは、石川初研究室の研究プロジェクトで、SFC敷地内にある貯水池、通称「鴨池」で採集した色の総称である。詳しくはこちら:石川初研究室HP

キャンパス内の寮の完成は、SFCの夢

 山田さん

学生が24時間キャンパス内で過ごすことで、期待されることはなんでしょうか?

 加藤教授

すべての人を代表して語ることはできないけど、そもそも30年来のSFCの夢だと思います。ぼくの知る限りでは、創設時に考えられていたことは、アメリカのキャンパスがモデルになっていて、学ぶ場所と住む場所が近接しているんだよね。それが、ようやく完成したということかもしれない。

寮生以外の学生の利用について

 山田さん

寮生以外の利用の仕方には、どのような使い方がありますか?

 加藤教授

これはぼくの考えだけど、食堂や会議室など寮生、そして教職員も使える場所はあるものの、まずは寮生のものだと思います。開かれた寮をどのように使っていくのか、いろいろ調整していくことになると思います。

βヴィレッジはカリキュラムのため、Ηヴィレッジは生活のため

 山田さん

未来創造塾「滞在棟」との違いはなんでしょうか?

 加藤教授

元々、コンセプトが違います。寮は生活の拠点です。
滞在棟(βヴィレッジ)は滞在型教育や研究の施設なので、授業と連動しています。だから、研究会で合宿とか、授業で使ったり、外部からゲストを招いたり、そういう使い方で、カリキュラムに紐づいている建物群です。

寮1期生から変わっていく、SFCに対する意識

 山田さん

5年後、10年後の寮はどのように変わっていってほしいですか?

 加藤教授

寮の歴史が古いところだと50年ぐらいのものはありますからね。
「寮生」という括りをしたことで、「寮生」と「通学生」みたいなメンタリティができていくためには、時間がかかると思います。やっぱり寮で暮らしている人たちは、キャンパスにいる時間が長いから、その人たちにしかわからない経験が蓄積されてきたときでしょうね。だから、第1期の寮生が卒業するころが一つの節目でしょうね。

別の言い方をすれば、このキャンパスだって、創設されてから、こういう形で成長してきたのは学生なり教員なりの使い方によってできたものだから。理想はもちろん、みんな仲良くするとか、そのくらいのことしか言えないけど、でもやっぱり一時的にでも住んだら、思い出しますよね。場所に対する愛着みたいなのは、キャンパスに抱く卒業生もいっぱいいるんだけど、寮があるとまたちょっと変わるんじゃないかと思うんですよね。

寮に期待を寄せる加藤教授(全塾協議会提供) 寮に期待を寄せる加藤教授(全塾協議会提供)

 山田さん

いまSFC生は慶應生と名乗るより、SFC生と名乗ることが多いように、今後「ターメリック生」というように名乗る学生も出てくるかもしれませんね。

 加藤教授

できれば、4つの棟それぞれに個性が出てくると面白いですよね。

 山田さん

ハリーポッターの寮のようですね(笑)。では、今から入る人たちがそのような個性を育んでいくということになりそうですね。

 加藤教授

そうだと思いますよ。だからこそ、1期生はお得ですよ。

共同生活特有の価値を得られる「ユニット」

—— 5人1組で共同生活をする、ユニットについて

 山田さん

「ユニット」の狙いは何か?どのような暮らしになると思いますか?

 加藤教授

日吉国際学生寮では、4人のユニットがあるなど、珍しい考えではないです。誰かと共同生活することは、すごく大事なことだと思っています。一生住むわけではないので、学生生活の一部として、初めて会った人・留学生・学年の違う人たちと混ざって暮らすことで、得られる価値は間違いなくありますよね。SFC生にもそのような経験をしてほしいという、そういう想いのもとで作られていると思います。

留学生のためのRAの存在

—— 在学生が一緒に寮に住み、留学生の生活をサポートをするRA(レジデンス・アシスタント)

 山田さん

RAの役割は具体的にどのようなものですか?

 加藤教授

この寮はユニットがあるので、RAの役割の当て方をちょっと変えています。5人組の中の1人「ユニットリーダー」という家の代表者がいます。なので、ワンフロアに何人かいると、何か起きたらその代表同士で解決してもらうイメージです。RAは寮全体のというより、留学生の支援になります。

寮の住民の不満や意見は、協議会で改善していく

—— ユニットリーダーは、ユニットでユニット内での生活環境の維持、問題解決を率先して行い、管理人・運営会社・大学と連携して寮の運営に関わる業務を補佐する。また、ユニットリーダーの中からハウスごとに「ハウスリーダー」を選出する。

 山田さん

「ハウスリーダー」は何をするのでしょう?

 加藤教授

この寮はキャンパス内にある寮だけど、学生は住民として、定期的に寮の運営について意見やアイデアを共有する機会があると思います。運営協議会を開くと、それは大学側と、運営、事業者だけではもちろん足りなので、(ハウスリーダーには)住民代表みたいな感じで意見を言ってもらうこともあるかもしれません。

 山田さん

では、いろんな制度やルールはそのような協議会の場で、住民の話を交えながら作るという感じですか?

 加藤教授

もちろんこれはお金を払ってアパートの一室を借りるのと一緒だから、当然規則はありますよね。いわゆる寮則。そういうのが、定められているので、例えば何かあったときに寮則に基づいて判断する。通常の賃貸契約です。その中において色々処理されることはたくさんあるはずで、暮らしていて「こうしたい、ああしたい」ってことがあったら、それは直接お願いする場合もあるかもしれません……。

でも、何が起きるかわからないんですよ。寮則であらかじめ決められているルールで、やっぱり十分対応できないことっていうのは、当然出てくると思うので、そういうときは、協議会という場で、みんなで相談するとかじゃないですかね。

 山田さん

今は最低限の寮則があるだけで、何が起こるか全然予測できないからこそ、住民である学生を含めて、大学である教員の方々みんなで話し合っていくという意味での運営協議会が存在するという感じですね。

 加藤教授

ICUの寮へ見学に行った時は、フロアのことはフロアで解決する。フロアでダメだったら、建物で。建物でもダメだったら、大学に声をかけると聞きました。

多分今後の理想は、ユニットの問題はユニットでなんとする。小さな単位で、生活していたら大概いろいろなことが起きるので、(小さな問題を)いちいち協議会に言われても対応できないかもしれません。小さなことは、自分たちで解決できるのであれば、解決する。

 山田さん

ユニットごとにいるかもしれない留学生は、積極的に絡んでいきたい学生と、消極的な学生とで分かれると思います。その辺は、RAがサポートをするイメージですかね?

 加藤教授

多分、他者と関わりながら暮らすっていうことに、ものすごい抵抗があったり、怖いって感じたりする人はユニット式の寮をえらばないと思います。だけど、そういうものを試してみようとか、最初の一年ぐらいは寮で暮らしてキャンパスのことをよく知ろうっていう気概のある人だったり、そういうスタイルに憧れる人は飛び込んでみると思うんですよね。もちろんそれは、全く違う文化や習慣でも、それはそういうものとしてやるしかなくて、だからユニットリーダーがサポートするだろうし、1年生だけが入るわけじゃなくて、RAも大学生で、学年のバリエーションもある。なので、そこで情報共有が行われると思うんですよね。

 山田さん

いろんな経験をしてみたいという人や、共同生活をチャレンジしてみるのもいいのではないかということでしょうかね。異文化経験をしたことがないSFC生も、ぜひチャレンジ精神を持ってやっていただきたいですね。

 加藤教授

ある人にとってはチャレンジだけど、それほど特別なことではないかもしれませんね。いろんな人がいて、1人ぼっちで生きているわけではないので。もちろん勇気を持って寮生活を始めるっていう人はもちろんそれでもいい。だけどそんなに別に勇気や決断を必要とすることはなくて、便利で、値頃感があって、ピカピカで、住んだことがないところってよくないですか?

ぼくは売る立場じゃないけど、新築で、デザイナー物件ですよ?
ここに住めば、それこそ入学したてでよくわからないって時に、友達ができるわけですね。ぼくは、湘南藤沢国際学生寮の学生にインタビューしたことがあるんですけど、聞いてていい話だなと思ったのが、コロナのこともあったんだけど、3月に入学してお友達もいなくて、でも寮で友達ができて、みんなで入学式行ったんだって。大したことないかもしれないけど、いい話だなって思ったんです。それはやっぱり、一人暮らし始めるのは心細いし、ましてやコロナの影響下では不安だったんだなって思うんだけど、そういうときに隣に誰かがいて、食堂にも誰かがいて、そこから日吉まで行く。可愛いというか、いいなって思いましたよ。

 山田さん

勉強、研究するのであれば、この寮でも生活できるし、1年生にとってみれば新しくコミュニティができるっていうのと、1期生というのは魅力がありますね。

 加藤教授

慶應では元々「寄宿舎」という呼び方をしていたそうです。三田にもあったんです。その歴史が、『三田評論』に書いてあったんだけど。それを読むとやっぱりそこでは「食」の生活環境と、学ぶ環境が一体化していて、教員と学生が一緒に食事をしていたというような記述があります。どうやら、学生が増えたことで、教室と寄宿舎、つまり学びと暮らしが分離してしまったのだと思います。Ηヴィレッジができあがると、かつてのように敷地内に寮があるのはSFCだけということになります。

 山田さん

ここからSFCの新しい文化を作っていくことになりますね。

最後にメッセージ

 加藤教授

この3年間くらい対面の場が奪われてきた体験は、若者にとってはものすごいインパクトを与えたと思っています。それを見てきた上で考えると、対面で誰かと一緒にいるっていうことは、活発におしゃべりすることがなくても、とにかく近くに人肌の温もりがあるということだけで、人はすごく救われるし、救われた人はたくさんいるので、そういうのを確認するいいチャンスだと思うんです。

やっぱり、とりわけ大学にできてすぐの時に、みんなでそういうことを考えながら、スタートするっていうのはすごく価値があると思います。コロナに感謝するつもりはないけど、ぼくたちの移動もそうだし、人と会うことが制限されてきたことを経て入寮に応募するということは、1期生だからとかじゃなくて、この2023年という今が絶妙なタイミングだなと思っているんですよね。

ぜひ入るといいんじゃないですかね。

「1期生はお得ですよ」と加藤教授(全塾協議会提供) 「1期生はお得ですよ」と加藤教授(全塾協議会提供)

SALTハウスを抜けて他棟へ

対談後、棟の周辺を見させていただいた。SALTハウスを通り抜けると、4つの棟が左右に分かれている。
SALTハウスの真ん中に他棟への通り道 SALTハウスの真ん中に他棟への通り道
左手前からR、B 右手前からP、T 左手前からR、B 右手前からP、T

4つの棟の玄関を過ぎたところで下り坂が始まる。そこを降りると、ちょっとした広場となっている。
振り返って見える景色 振り返って見える景色

キャンパス内でのΗヴィレッジの場所

Ηヴィレッジ(Ηヴィレッジ公式HPより引用) Ηヴィレッジ(Ηヴィレッジ公式HPより引用)
θ館から道路を挟んですぐ、Ηヴィレッジが建てられている。メディアセンターへも、体育館へもすぐ行くことができる立地である。
道路を越える前から見えるSALTハウス 道路を越える前から見えるSALTハウス

生活スタイルに、寮という新たな選択肢

キャンパス内の寮に住むことは、通学時間による行動制限が減るということだ。とりわけ、朝の「バス列」といわれる現象があるように、SFCの立地上通学に2,3時間かけて登校する学生を見かける。その時間を短縮できることで、図書館で勉学に没頭したり、鴨池で友達と日が暮れるまで談笑したりする時間が増えるのは、寮生の特権だろう。
寮生活という選択肢が増えたことで、キャンパスライフをどう過ごすか生活スタイルの選択肢が増えた。また、同ユニットの違う学年と生活をすることで、同学年以外の繋がりが増えてより充実した思い出になるだろう。

ぜひ、1期生として新しいSFCの文化を作ってみはいかがだろうか。

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